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2007-08-20 14:14
連載投稿(1)参院選挙後――本当の課題に目を凝らせ
角田勝彦
団体役員・元大使
7月参院選での自民党惨敗については、主として戦術面からの原因分析が行われている。すなわち年金記録漏れへの初動対応の不手際、「政治とカネ」や放言で問題を起こした諸大臣の処分の甘さと遅さなどである。PR会社を使った広報の失敗も指摘されている。安倍総理の留任は一応容認されたが、側近に対し未熟と責任を問い交代を求める声は強い。
他面、実質問題、すなわち安倍総理が争点にしようとした憲法改正を含む「戦後レジームからの脱却」や「美しい国」論は、小沢民主党代表の肩すかしもあって、かすんでしまった。小沢代表と自分のどちらを選ぶかという発言まで行った総理としては、無念だろう。7月29日夜のテレビで「惨敗の責任は私にある」としつつ、「基本路線については多くの国民のみなさまに理解していただいている」と強調したのは、このためだろう。「政治の空白をつくることは許されない」「今後とも新たな国づくりを進めていくことが私の使命」だとも述べている。構造改革についてもメルマガで「改革の方向性が今回の結果によって否定されたとは思えない」と断じ、党側の公共事業費増への圧力を退け、8月9日、小泉政権の財政再建路線を踏襲した2008年度予算の概算要求基準(シーリング)を了承した。
一応続投をかちとった安倍総理は、戦術面からの対処策として、 8月27日に予定される内閣改造・党役員人事で、政権浮揚を図ろうとしている。しかし、その成功は疑わしい。どんな人選をしても、ポストに限りがある以上、満足より不満の方が多く生まれよう。入閣などへの期待もあり、いまは控えられている総理への批判的発言が噴出する恐れもある。中旬の守屋防衛次官交代を巡るごたごたは、人事の成功に早くもケチを付けた感がある。敗北必至と見て早期解散は回避すべきとの声が圧倒的な自民党内部でも、一番早い説では、秋の臨時国会が大詰めを迎える11月頃の解散が取りざたされていると報じられる。
しかし今後問題になっていくのは、実質問題だろう。問題は、参院選で自民党に表明された不満には、相反する主張があることである。内政面では、例えば構造改革路線に対する考え方である。小沢代表は、一人区の選挙民に自民党路線では見捨てられると訴え農家への戸別所得補償まで約束した。民主党は圧勝した。自民党の中でも軌道修正、具体的には、小泉政権下、5年前の28兆円から18兆円に減ったとされる公共事業費増への要求は強い。逆に自民党の若手には「改革後退のイメージが広がれば『昔の自民党に戻った』と見られ、次の衆院選は惨敗だ」と危惧する声がある。財界や外国では、「失われた10年」の再来すら恐れられている。官僚制を悪役に仕立て国民の共感を得て構造改革を我慢させようとした戦術は成果をあげず、官僚や組合の反感を生んでしまった。その抵抗は大きい。8月末各閣僚が提出する予定の独立行政法人の整理合理化案は、どんなものになるだろうか。
外交面では、安倍総理が悲願とする憲法第9条改正関連が中心であろう。9条ネットを含む反対の高まりと、靖国参拝の要請など左右の不満があった。結局、今回の選挙の当選者のうち憲法改正に賛成なのは48%と半数を割った由(8月7日朝日新聞電子版)である。この不満をどう満足させていくかは、今や自民党のみでなく民主党の課題となっている。(つづく)
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連載投稿(1)参院選挙後――本当の課題に目を凝らせ
角田勝彦 2007-08-20 14:14
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