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2020-04-22 00:16
(連載2)地経学から見た新型コロナウイルス
河合 正弘
日本国際フォーラム上席研究員/東京大学公共政策大学院客員教授
体制間競争の観点からは、中国のような強権的な専制主義と透明性・人権を重視する民主主義とで、どちらの方が新型コロナの感染拡大を抑える上で効果的なのか、という問題が挙げられる。中国は、湖北省武漢での当初の感染の発生・拡大期に厳格な情報統制を敷き、結果的に湖北省から中国各地、世界中にウイルスを拡散させた。ただ、その後は強権的な武漢市の都市封鎖や湖北省内外の移動規制を課したり、感染者に対する監視を強化したりして、新型コロナの封じ込めにかなりの程度成功したものとみられる。それを踏まえて、早期の経済活動の再開に乗り出している。
その一方で、民主主義国である米国、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、英国では感染者がいずれも10万人以上(米国は76万人)、死亡者が15,000人以上(米国は40,700人、ただしドイツでは5,000人未満)に上っている。欧米での爆発的な感染拡大は、初期の時点で問題を過小評価したことに起因するものと思われる。民主主義国の国民は、透明な情報と科学的な知見の下で人権やプライバシーを保護しつつ、自主的な行動制限、検査の徹底、感染者の隔離、重症患者の治療に焦点を当てることで、新型コロナの感染拡大と死亡者数の増大を防ぐことができるはずである。日・米・欧は、全体主義的な情報統制や国民監視によってではなく、情報の透明性と人権・プライバシーを守りつつ、感染拡大を封じ込められることを示すべき立場にある。その成功が自らの経済活動の再開を後押ししよう。
この間中国は、東南アジア諸国や米国が新型コロナへの対応に追われている間隙を突いて、南シナ海での実効支配を強める動きを見せている。軍事化を進めている人工島などの拠点で、海南省三沙市に新たな行政区(南沙区と西沙区)を設けることを発表したのである。中国は1953年から南シナ海のほぼ全域で「9段線」を設定してきたが、2012年7月には、南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)、中沙(マックルズフィールド岩礁群など)の3諸島を管轄する行政単位として海南省に三沙市を発足させた。16年7月に、フィリピンが申し立てた仲裁裁判所の判決で、南シナ海での権益の主張を否定されたが、その後も南沙、西沙諸島やスカボロー礁などで軍事拠点化を進めてきた。今回の発表は、力による現状変更の結果を制度化し実効支配を既成事実化しようとする試みだ。
日・米は、東南アジア諸国と連携して、力による現状変更や実効支配の確立は国際法に反するものだとして、中国に取り消すよう強く訴えていく必要がある。そのためには、米国が主導して日・豪州・欧州・ASEANとの間の国際協調態勢を強化し、一致団結して中国に迫ることが何よりも欠かせない。(おわり)
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(連載1)地経学から見た新型コロナウイルス
河合 正弘 2020-04-21 22:13
(連載2)地経学から見た新型コロナウイルス
河合 正弘 2020-04-22 00:16
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