先行きの見えない新型コロナの感染状況の中、窒息寸前の経済状況を見据え、出口戦略が語られ始めています。政府は今日にも緊急事態宣言を解除するとのことなので、今後一層出口戦略の議論が高まるかと思います。この出口戦略を考える上で大切なのが、感染の「収束」と「終息」は違うということを認識することです。感染症における「収束」とは、「(状況・事態などが)ある一定の状態に落ち着く」という意味で、社会的状況などがかなり落ち着いてきた場合に使われ、一方「終息」は、感染が「完全制圧」された場合に使われます(NHK放送文化研究所 「最近気になる放送用語」 )。現時点で政府が目指しているのは収束なのです(なぜ終息でないのかは後述)。この点において世間に大変な誤解を与えたと言えるのが、いわゆる「西浦モデル」と言えます。
これは、厚生労働省クラスター対策班の西浦博北海道大教授が4月15日に記者会見で発表した「試算」のことです。会見で同教授は、対策を全く取らなかった場合、日本で約42万人が新型コロナウイルスで死亡するとの試算を発表しました。そこで接触8割削減を提唱すると共に、その 効果は1ヵ月で表れるとするシミュレーション図 を示したことで世間に衝撃を与えました。一方でこの図を見て世間は、1ヵ月間我慢すれば、感染流行は終息すると「誤解」して、ひたすら「ステイホーム」に取り組んだわけです。ところが西浦モデルは感染の収束を示したに過ぎず、接触8割削減を止めてしまえば15日後には感染者数が元に戻ってしまうのです。これについては、東大大学院理学系研究科生物科学専攻に掲載されている「 【新型コロナウイルス】緊急事態宣言解除後も『行動自粛を継続』することが大切です 」が詳しく説明しています。
また約42万人が新型コロナウイルスで死亡するとの試算もまた、本来であれば驚くに当たらないものでした。なぜなら、新型コロナ対策に適用させるための改正された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」以下「特措法」)第6条に基づき政府が事前に作成していた「 新型インフルエンザ等対策政府行動計画 」8頁では、日本でインフルエンザのパンデミックが発生した場合の死亡者数の上限を約64万人と見積もっていたからです。この事実を知らなかったマスコミは、西浦氏の「クーデター」( 「専門家のクーデター」西浦教授が明かす“42万人死亡試算”公表の真意 )に一役買ってしまったわけです。
それでは感染の終息とはどういう状態をいうのでしょうか。上記の政府行動計画では、感染症の発生段階を「未発生期」「海外発生期」「国内発生早期」「国内感染期」「小康期」の5段階に区分し(25頁)、「小康期」を終息している段階と定義しています(72頁。なお政府行動計画では収束という言葉は使われていません)。そしてこの段階において国は、緊急事態宣言解除宣言を行い、国会に報告することとしています(72頁)。安倍総理は緊急事態宣言の解除を巡り「どういう基準で解除したのか、あるいは、解除しなかったところは、どういう基準でしなかったのかを示したい。専門家に基準を作ってもらおうと思っている」(2020年5月6日、NHK)と発言していますが、政府行動計画によればその基準は主に以下の通りです(72~73頁)。