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2020-06-01 11:40
(連載2)改めて「対中外交の4本柱」を提起する
北原 二郎
会社員
先述の1895年の尖閣諸島の沖縄への編入が、日清戦争終結の下関条約締結以前であること、国際法上の「先占」の原則が成り立つことは明確で、国際社会に日本政府は発信し続ける必要がある。一方で、韓国との竹島問題の中で国際司法裁判所への提訴を日本が一時検討したことを中国側が盾にとり、国際司法裁判所での解決を提案してくる事態も考えられる。中国は「日本は堂々と(国際司法裁判所への提訴に)応じよ」と主張しないとも限らない。ご存知の通り、日本外務省は「尖閣諸島は日本固有の領土である、領土問題は存在しない」「国際司法裁判所への提訴は領土問題を認めることなる(ので、行わない)」という見解である。日本外務省がこうした見解に固執し、中国側からの提案を拒否することを見越してのブラフであり、「領土問題を平和的に解決することを望んでいる中国」と「平和的アプローチを拒否する日本」という図式に持ち込み、国際世論を中国側に付けるのが狙いである。
このブラフに虚を突かれ主導権を中国側に握られてしまうと、日本は「中国との二国間対話」に臨まざるを得なくなる。アジア・西太平洋地域におけるパワー・バランスが、日米優位であった10年前、20年前ではなく、中国優位が誰の目にも明らかになった段階での、経済的・軍事的圧力の下で日本に妥協を迫る二国間交渉で、果たして日本は領土を守ることが出来るであろうか?そのため、先述のブラフに対しても「尖閣諸島は1895年より日本の固有の領土であるが、中国側が同意するなら、日本は国際司法裁判所の判断を仰ぐこともやぶさかでない」と返す刀で国際世論に対して主張し、「中国との二国間対話」ではなく「国際司法裁判所」の場を利用できるよう、また、国際世論を味方につけることが出来るよう、日本側としても準備しておくべきであろう。奇妙に思われるかもしれないが、中国は他国から提訴された際の応訴が義務付けられてはいない。そのため「中国側が同意するなら」との条件を付したのである。
3本目の「国際司法裁判所の活用」については、先述の国際世論を味方につける「言論戦」の内容とも重複するが、これまでの外務省の見解は「尖閣諸島は、日本固有の領土であり、領土問題は存在しない。日本が国際司法裁判所に提訴することは、領土問題の存在を認めることになる(ので、行わない)」という内容であったが、再考をお願いしたい。アキノ政権下のフィリピンの例に倣い、相手国の同意を必ずしも必要としない国際海洋法条約に基づく仲裁裁判所への提訴も有効かもしれない。それは、国際世論を味方につける「言論戦」につなげる上でも重要である。彼らにとって最も不利なのは、国際司法裁判所や多国間交渉を、中国の優位が確立する前の段階において活用されることであり、有利なのは増大する軍事力・経済力を背景に「実効支配」を今後更に強め、圧倒的優位に立った段階で日本に妥協を迫るという、正に弱肉強食のマキャベリズムに基づく二国間交渉なのである。
そして最後の4本目の柱であるが「実効支配の強化」である。これは2012年10月14日の拙論の中でも提案した、「自衛隊の駐留」「米軍との共同管理レーダーの設置」「船だまりの建設」を進めることである。他にも、当該海域において日米を中心とし、英・豪・印を加えた合同訓練も検討できよう。無論、このステップに進むための前提としては、すでに述べた「日米同盟の強化」、国際世論を味方につける「言論戦」、そして「国際裁判所の活用」という3本の柱が欠かせないのは言うまでもない。2016年8月6日に、尖閣諸島周辺で230隻の中国漁船が遊弋し、7隻の中国公船が日本の領海のすぐ外側にある接続水域に侵入した事実も忘れてはならない。漁船団保護に名を借りた露骨な領海侵入などの行為をエスカレートさせる虞れが大いにある。中国が南シナ海において、薄くサラミを切るようにベトナムやフィリピンといった相手側を浸食し、「実効支配」を進めた手法から容易に想像できる。そのため、現段階では先述の合同訓練や、日本を含む多国籍で船団を組んで当該海域を航行する、荒天時における漁船保護の体制を整える等の方法で、日本の領土であり且つ「実効支配」にあることを、事実の上で積み重ねることから始めても良い。
尖閣問題はまさに時間との闘いである。日本国の領土と誇りを守る強い覚悟をもって、外交戦略を組み立てることこそが、現在の日本にとって喫緊の課題である。そのため、2012年、2016年に投稿させて頂いた内容と重複する部分が多いが、アメリカ大統領選挙のある年は中国側の軍事的な挑発がエスカレートする傾向があることから、拙論を述べさせて頂いた。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)改めて「対中外交の4本柱」を提起する
北原 二郎 2020-05-31 15:02
(連載2)改めて「対中外交の4本柱」を提起する
北原 二郎 2020-06-01 11:40
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