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2020-07-04 13:27
トランプ落選を安易に語るなかれ
木村 勉
年金生活者
私のような年齢になれば、時代の経過に伴い、市井の価値観が激流のように変わっていくことを体験的に理解するものだ。自分の子供とも価値観が合わないのに、孫ともなると、合う合わない以前に理解するのにも一苦労だ。孫の行動について、自分の子育て時代だったら間違いなく叱っていたし、叱らなければ子供のためにならないと確信していたようなことでも、時折、自分の感覚が現代に合致しているのか確信が持てず、叱ることに二の足を踏むようになった。それを思えば、ましてや悠久の世界史をめぐって価値を語ることはたいそう難しい。過去の歴史上の人物の言動や出来事、社会的通念などに対して、現在の価値観を基準にその是非を問えば、そのほとんどがなんらかの切り口から糾弾されるべき存在となってしまうはずだ。その点、古村治彦氏の『歴史的偉人の断罪はいくら何でもやり過ぎだ』(2020年6月29日、e-論壇「百花斉放」)は、我が意を得たりというところである。
ところで、この論考は「抗議活動の過激化はトランプ大統領の言葉に説得力を持たせる。トランプ大統領を当選させたくないという人々が抗議活動に参加しているだろうが、逆効果であることを理解すべきだ」と結論づけられていたのが興味深かった。なぜなら、今、世の中ではトランプ大統領は落選するだろうとの見通しが大勢だからだ。そこをあえてこの結論としたのには、古村氏にはトランプ大統領の勝ち筋が見えているからではないか。報道によると、「共和党の元国家安全保障担当者数十人が民主党大統領候補のジョー・バイデン氏を支援するグループを結成している」(2020年6月25日、ロイター)という。つまり、共和党有力者の一部が、民主党のバイデン氏に寝返るということだ。
このなかには、ブッシュ政権で活躍したオピニオン・リーダーであるロバート・ブラックウィル氏も関わっているとのことだから、これが本当なら、共和党保守派に与える影響力は大きい。共和党から造反が出て現役大統領の再選を妨げる、さらに民主党候補者を支持するなどということは、寡聞にして聞いたことがない。2020年は実に奇妙な事ばかりが起きて辟易するが、米国大統領選挙もその例外ではない。ロイターの書きぶりからするとは、この勢力はさらに拡大する可能性があるようだ。また、積極的には反党行為は行わないがトランプ大統領にだけは投票しないと公言している共和党系の大物も多くいる。これが本当ならトランプ大統領の命運は尽きたようなものだ。
しかしながら、こうした話を鵜呑みにしてバイデン当選を確信するのも時期尚早だ。そもそも、風見鶏のようにバイデンに利する行動を取る共和党議員たちは、もしバイデンが当選したら、このリベラル派の典型というべき民主党大統領と自身の政治理念との間でどう折り合いをつけるつもりなのか。また、いうまでもなくトランプ不支持を決め込む共和党系有力者にしても、典型的な保守派でその支持層も伝統的な右派だ。彼らがこうした筋が通らぬキャンペーンにどれだけ乗るだろうか。そもそも、表向きトランプ大統領が逆風に見えるというのは、4年前の大統領選挙と同じではないか。今回も、表立ってトランプ大統領を支持できないが、実際にはトランプ大統領に投票しようという人が潜在的に数多く存在するという可能性は否定できない。4年前に破天荒な大統領を誕生させたアメリカの世論が、今年の秋には同じ展開を示さないと断言するだけの自信は私にはない。
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投稿履歴
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