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2020-07-29 16:23
(連載2)何故プーチン政権の延命か――利権構造温存の「裏技」
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
2008年の大統領選挙の際には、一般国民だけでなく、プーチン大統領に批判的な改革派の政治家たちも、改憲をしてでも大統領任期を延長すべきだと強く主張した。ロシアの政治・社会の安定が壊れることを恐れたからである。従って2008年にプーチンの任期延長のための改憲が提起されたら、圧倒的な国民の支持を受けたはずである。しかし当時はプーチン自身がそれを拒否した。何故か。その理由は、中央アジア諸国やアラブの独裁国家では、憲法改定で大統領終身制が次々と導入されたが、プーチンは「先進国」ロシアを、そのような国と同一視されることを強く嫌ったからである。
では、この12年間に何が変わったのだろうか。最大の理由は、国民が安定を望むというよりも、逆に変化しない政治・社会にウンザリするようになったことだ。2008年の頃は、ソ連が崩壊して混乱と無秩序が支配した「屈辱的の90年代」の記憶が強く、国民は何よりも安定を求めた。しかし、その後の12年間は、経済が停滞して貧富の格差が強まり、一般国民の生活では貧困化が強まった。腐敗、汚職などの蔓延に国民の不満は強まり、若者の多くが、全てはカネとコネ次第という社会の閉塞感ゆえに、国外移住を希望している。つまり、安定よりも変化と本格的な改革を強く望むようになったのだ。プーチン政権が今後十数年も続くのはまっぴら、というのが大部分の国民の本音である。
プーチンが大統領任期の延長を求める背景として、重要な理由が一つある。それは、プーチンが退職すると、反対者を抑圧してきた彼の身の安全が保障されないということだ。さらに深刻な問題は、プーチン個人というよりも、現在のロシアでは政界も経済界も重要ポストが「プーチン人脈」で支配されているということ、そして「ポストは利権」ということである。また、ロシアの資源依存経済は今ピンチに陥っているが、資源依存経済からの脱却の必要性、すなわち経済の構造改革の必要性は指導層の皆がとっくに理解している。分かっていても実行できないのは、やはりポストは利権だからだ。もし指導部が政治、経済の構造改革を本気で実行すれば、文字通り血を見ることになる。つまり、現体制で利権を享受している社会層、つまりプーチン人脈そのものが、プーチンの退任を「許さない」のである。
それゆえロシア国民は現状にウンザリしているが、プーチン体制、すなわち今日の利権構造は今後も続くだろう。ただ、それが危険なマグマを孕んでいることも、事実である。プーチンによる改憲と日露関係、特に北方領土問題については、日本のメディアは今も誤った認識を広めている。これについては機を改めて述べたい。(おわり)
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(連載1)何故プーチン政権の延命か――利権構造温存の「裏技」
袴田 茂樹 2020-07-28 19:36
(連載2)何故プーチン政権の延命か――利権構造温存の「裏技」
袴田 茂樹 2020-07-29 16:23
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