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2020-10-13 11:44
(連載2)QUAD、対中外交の基盤強化
鍋嶋 敬三
評論家
日米豪印4ヶ国外相会合(QUAD)に参加したインドは長期にわたるカシミール地方での中国との国境武力紛争を抱えて反中感情が強いが、会合での表現は抑制的で慎重である。インドは2019年の東アジアサミットで「インド太平洋海洋イニシアティブ」を提唱しているが、ジャイシャンカル外相は会議の冒頭発言で「インド太平洋の概念がますます広く(国際社会で)受け入れられていることに満足」を表明した。東京での米印外相会談で両国は「地域、国際問題で緊密な協力を続ける」ことをうたった上、「今年中の米印(外務・国防)2+2閣僚対話」の開催に期待を示した(米国務省発表)。
QUADでは共同声明が発表されず、各国が結果を独自に発表したことについて、インドの有力紙ヒンドスタンタイムズ紙は、米国の「制度化」要求にもかかわらず、緩やかな非公式なグループとして続けることになったが、中国に対抗するにはどちらが効果的なのか、専門家の間でも懐疑的な見方があることを伝えた。同紙は社説で「QUAD進展の最も重要な原動力は中国」と指摘した。そして(1)QUADが中国とのバランスを取る上で重要な役割を果たしていることに合意がある、(2)中国と名指しはしないが、海洋からサイバーに至るまで中国の影響力に対抗する目的で協力する、(3)毎年開催およびASEANの重要性の確認は組織として進化し、地理的にも拡大の方向を示した、(4)QUADは既に「準公式的地位」を得ているーという分析と評価を示した。
主管国・日本にとっての成果も大きい。会合後の外務省の発表を見れば1年前との変化がはっきりする。第一に、地域の主要な安全保障上の懸念について「北朝鮮、東シナ海、南シナ海」とはっきり具体的に言及した。第二に、「自由で開かれたインド太平洋」という日本が安倍晋三内閣で提唱したビジョンが戦略的構想として幅広く共有することができ、拡大の道も開いた。第三に、ASEANに対する全面的な支持に踏み込んだ。中国の影響力が経済関係から安全保障への影響が強く危惧される地域である。個別の外相会談でも、日印間ではインド周辺の南西アジアが、また日豪間では太平洋島嶼国への協力など、安全保障、経済を含めた協力の裾野を広げる構図ができた。
第四に、「欧州」にはじめて言及した。植民地時代を含め歴史的に地域に関係が深い英国やフランスが念頭にあり、世界的な広がりを期待している。QUADの当日、菅義偉首相が欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長と電話会談したのも、その表れだ。菅首相は10月中に初の外国訪問としてベトナムとインドネシアを訪れる。ASEANの主要国であり、ともに中国との南シナ海領土紛争の当事国でもある。4ヶ国外相会合後に記者会見した茂木敏充外相は「より多くの国々へ連携を広げていくことの重要性に各国の賛同が得られた。日本が提唱した外交コンセプト(概念)がこれほどまでに国際社会に浸透したことは今までなかった」と成果に自信を示した。日本にとってはQUADの成果を基礎に中国との関係をいかにうまく処理していくかが課題だ。外交・安全保障の基礎である日米同盟関係を日本自身の防衛力を強化することによって抑止力を向上させることが基本である。4ヶ国外相会合の成果を基に、有志国をアジア、欧州に広げ、協力の内容を深化させることによって中国に対する日本の外交力を向上させることが当面の課題 であろう。(おわり)
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(連載1)QUAD、対中外交の基盤強化
鍋嶋 敬三 2020-10-12 12:20
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鍋嶋 敬三 2020-10-13 11:44
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