現在のヨーロッパで注目すべきは、たとえばオランダだろう。致死数を下げて、「第1波」の死者数を上回る状態に達する前に、緩和された社会政策で、「第2波」の新規陽性者数の抑制に成功し始めたように見える(ベルギーも似た傾向があるが、相対的に成績が悪い)。グラフを見て一目瞭然だが、オランダの「第2波」の一日当たり新規陽性者数は、「第1波」の際の約10倍の高水準に達した。だが「第2波」の死者数は、現時点で「第1波」の際の半分を超えた程度の水準である。もちろん、死者数は、陽性者数の遅行指標と考えるべきものである。しかし逆に言えば、新規陽性者数がピークアウトしたのであれば、死者数もピークアウトする。最終的には、「第1波」の10倍の新規陽性者数で「第1波」と同程度の死者数になった、ということになりそうである。この場合、致死率は10分の1程度にまで下げた計算になる。
ヨーロッパでは様々な条件から、日本よりもいまだ「波」が大きい(陽性者数と死者数の絶対数が多い)。オランダとベルギー以外では、まだ「第2波」の抑制の糸口が見えていない。むしろ一部の国、特にフランスの状況は非常に悪い。ただヨーロッパが目指しているのは、日本とほぼ同じものである。恒常的な対策と、段階的な社会政策の導入による抑制管理が、進められている。オランダが目に見えた結果を確定できるかどうかは、注目点だ。
オランダ政府は「インテリジェント・ロックダウン」の概念を好んで用いて、部分的かつ段階的な社会政策を導入する姿勢をとっている。11月に入ってからのピークアウトは、10月中旬に導入した飲食店の閉店措置によるものだろう。ただしその他の目立ったロックダウン措置はとられておらず、日常生活の中での一層の配慮が求められているだけだ。国境封鎖も導入されていない。オランダでは、10月になってからようやく公の場におけるマスク着用が要請されるようになっただけで、マスク着用率も日本と比べると非常に低い。その他の社会行動の変容も、日本人からすれば「手ぬるい」ものだ。とはいえ、ソーシャル・ディスタンスや除菌剤などは普及しているし、喚起の重要性なども徹底されてきているので、全般的に気を付けていないわけではない。「知性的な対応」を強調しているだけあり、少なくとも「第1波」の段階と比して目に見えた改善は図っている。私は、ここまでくると、一概に日本のほうがオランダより優れている云々といったことはあまり言えないと思っている。オランダはもともと高齢者の安楽死を合法化しているような国だ。新型コロナの犠牲者数の捉え方も、日本と全く同じではないだろう。何を、どのように、いつ行うかは、議論を通じて決めるべき政策判断事項なのだ。
そもそもウイルスの蔓延をゼロにしたいのであれば、全国民に強制的に睡眠薬を飲ませて何か月も眠らせておくしかない。そうではなく、社会的に持続可能性のあるやり方で抑制管理を図りたいのであれば、どの程度の水準での抑制を目指して、どのような措置を、いつとっていくかを、しっかりと議論して判断していかなければならない。「波」は自然現象ではない。人間が作り出しているものである。尾身会長が、「人間のファクターが大きい」と説明しているのは、そうした意味だ。そのことを意識化せず右往左往していたのだとしたら、意識化しよう。そして、何を、どこまで、いつやるのかを、人間自身がしっかりと考えて決めていく、という政策判断を行っていこう。(おわり)