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2021-01-13 14:31
国産ワクチン立ち遅れにみるニッポンの閉塞
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「世界中の様々な製薬会社が新型コロナのワクチン開発を行っているが、日本の製薬会社の名前はあまり聞くことがない。これはなぜなのだろうか。中国メディアの「網易」は12日、『製造強国の日本はなぜ新型コロナワクチンで出遅れたのか』と題する記事を掲載し(中略)ワクチンの問題は、日本の製薬会社の問題を反映しているだけではなく、その背後には日本の製造業の競争力が落ち続けているという事実が関係している可能性がある」と結んだ(2020/12/16 Searchina)。モノづくりニッポンはもはや一世代前の語り草、もはや歴史の藻屑の中に消えた。上の記事は、その「歴史」を記憶にとどめている中国人記者が「何故だ?」と不思議に思って書いたものを、日本人向けに書き直された中国紙紹介記事だ。
国内メーカーはアンジェスと塩野義の2社がようやく昨年末に治験に入っただけで実用化の時期も公表できていない。国際競争場裏で後れを取っているのはたしかだ。日本の製造業の国際的立ち位置の遅れということで言えば、繊維・鉄鋼・造船・電機・建機・家電とほぼこの順で世界市場から敗北していって、今や自動車がそれもトヨタ一社が辛うじて世界トップを走っているのみである。それとてもトヨタのお家芸、ハイブリッドカー(HV)から米中が頂点を競う電気自動車(EV)へと自動車製造の潮流は変わっている。
日本のモノづくり産業の衰退は上の記事の通りだが、しかしそれは世界史の中の一種の避け難き運命的な文明移動でもある。基本的に、近代文明はその産業革命の発祥地イギリス・西欧から始まって米国そして太平洋を渡って日本へと、夜が明ける順序に従って西へ西へと移動していった。その循環が1980年代になると日本海・東シナ海を渡って韓国・中国へ、爾来一世代30年余中国大陸各地にとどまって、ようやくインドから中東へと移る予兆を示している。この流れがサブ・サハラ・アフリカに今世紀中盤以降に達するとすればそれで近代文明は地球を一周したことになる。この非情な文明循環の中で、製造大国米国が日本に敗れたとき、大勢の市民がホンダのCVCCをハンマーで叩いたり車上に載って星条旗を上げたり、東芝製のカセットラジオを叩き割ったりする映像が報道された。しかし、そのアメリカはGAFAに象徴されるICT産業へと身をかわし今も世界経済の首位を保っている。それを追撃する中国、そしてなお西部へ西部へと循環のメインストリームは移動し、次の文明のステージを開いていくのかもしれない。
問題は負けっぱなしのニッポンだ。観光産業で食っていこうというレベルに居て、閉塞の出口へ人々を導く指導者がまるでいない。そのことがこの国の最大の悲劇だ。学術会議問題に見るように「知性」を尊ばず、これをヘジテートする指導層の教養不在が真因であろう。
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投稿履歴
ものづくりは今も変わらず日本の強みだ
船田 元 2020-12-25 15:47
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国産ワクチン立ち遅れにみるニッポンの閉塞
伊藤 洋 2021-01-13 14:31
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