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2021-04-16 23:05

(連載3)プーチン体制は崩壊するか――「ロシア社会の3階層」の視点から

袴田 茂樹 日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
 ロシアには手動統治(ルチノエ・ウプラブレーニエ)という言葉もある。どのような近代的な制度を創設しても、様々な機関や組織が、本来目的とする機能を制度的には果たさず、それぞれの組織や部門の指導者個人が大幅な権限を握って恣意的に組織を動かすことを言う。これが一般化しているので、汚職・賄賂などが横行するクレプトクラシーが生まれるとも言える。もちろん指導層の間には熾烈な権力闘争も存するがそれは別問題である。
 
 制度や組織のポストが利権化し、それが収奪政治や手動統治と結びついているとすると、現体制のこの構造的な欠陥が明らかになったとしても、構造改革を行うことに対しては、体制の受益層は強烈に抵抗するか、形式的に改革を受け入れても実質的にはそれを骨抜きにする。現ロシアの政治、経済、社会の最大の問題点はここにある。
 
 換言すると、政治的にも経済的にも、本質的な構造改革は困難であり、それを本気で遂行しようとすると、文字通り血を見ることになる。プーチン体制の指導部は、政治的には手動システムを、経済的には資源依存体制を抜本的に改革すべきことはとっくに理解しているが、その構造改革が実現しない理由もここにある。クレプトクラシー下で利権を貪り私利私欲に走っている層は、政治指導部、官僚組織上層部や経済界でオリガルヒ(新興財閥)と呼ばれている超富豪の人たちだけではなく、政治・経済界のかなり広い層に及ぶ。これら現体制で利権を貪っている層がまたプーチン支持層でもある。彼らにとって、現体制を守る象徴的人物になっているのがプーチンなのだから。
 
 以上、ロシア社会の3つの層に触れたが、1や2の層に属する者の中にも、3の特権層、収奪層に属する者、またその子弟・家族や関係者もいる。当然彼らの多くも、プーチン体制の支持層と言える。ナワリヌイ事件は、現在のプーチン体制を覆すことを目的としているが故に生じた訳で、ロシアにおいては、ある意味で起こるべくして起きた事件とも言える。また、プーチンに対するウンザリ感を大部分の国民が共有し、プーチン批判の運動が全国的に生じても、プーチン体制の崩壊が簡単には生じないと考えられるのも、以上の説明で充分理解できるだろう。(おわり)
 
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