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2021-07-03 23:11
トランプ前大統領のツイート和訳裏ばなし
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
ノンフィクション作家で、グレアム・アリソン著「米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ」などの翻訳家藤原朝子さんの「トランプのTwitterと格闘して」と題して語った「NHKラジオ深夜便」(5月20日放送)がとても面白かった。
藤原朝子さんは前米国大統領ドナルド・トランプの就任最後の2年間、彼が発するおびただしいTwitter投稿を日本語に翻訳する仕事を依頼されて続けたという。この「難解」な仕事を受けたのは、ニューヨークタイムス紙の記事がトランプ氏の発言を政治記者の言葉ではなく、トランプ氏自身の生の声を記事に載せるというように同紙がある種「批判的・意図的?」な書き方に変える中で、日本の新聞からの要請がそれをそのまま翻訳して欲しいと要望されるようになって、その行きがかりからトランプ氏のTwitterを逐一翻訳し日本のメディアへ伝えることになったのだという。以後、ワシントン現地時間朝3時に起きテレビ(それも彼が気に入っているFOX TVのみに限定)ばかりを見ながらトランプ氏が乱発するTwitterを彼女は毎日逐一追跡しなければならなくなったのだそうだ。ご苦労なことではあった。これをやっている間にロナルド・トランプという人物の人となりが鮮やかに見えてきたと語る。
藤原さんが気がついたのは、そもそも4年以上前トランプ氏が大統領選に立候補するというので記者のインタビューを受けるにつて「核戦略」について尋ねられ、その応接に専門用語が一切出てこない、出てこないだけなら一般民衆に宛てて易しい言葉で語っているとも言えなくもないのだが、専門家なら国際関係の中で言い換え不能なジャーゴン(専門用語)がどうしても出てくるものであるが、トランプ氏の発言にはそういう難解な用語が一切出てこない。意図的に用いないのではなくて、実はトランプさんの頭の中に概念として「核戦略」などは入っていないのではないかということに気がついたというのである。面白かったのはサイバー攻撃への質問が出ると、急に「マサチューセッツ工科大学MITにプロフェッサーの叔父がいるんだ!」と何の関係もない話を始める。何のことはない、彼に「サイバー攻撃とは何か?」というそもそもの専門知識が無くて、質問者への答えの持ち合わせがなかったためにそういう発言になったということだが、そういうことが藤原さんに判ってくるのは追々と時間が経ってからで、その根源を辿っていくと、トランプという人は実は生涯を通じて「読書体験」をほとんど身に付けていなかったということに行き着いたというのである。
つまり、トランプ前大統領は、世界の「今・現代」を説明するに必要となる「言語(Text)」の持ち合わせが無く、それゆえに大衆に能く通ずる平易な言語で話すことになって、それがために「大衆」との間に溝が無くなり、人気を獲得する。それを通じてポピュリズム化していったという分かり易さに通じていたのではなかったかと、藤原朝子さんの話である。聞いていて筆者のウロコはすべて目から落ちて今や一つも無くなった、ような気がする。それにしてもシュツルムウントドランクの4年が終わって、改めてあれは一体全体何だったのかという気持ちと、待てよ日本政治もトランプ政治とどれ程の違いが有ったのか。いま全く自信をもって語れないことにも気がついたのである。
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