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2021-08-22 21:00
(連載2)中国の自己認識像と世界の評価のギャップ
松川 るい
参議院議員
「中国人民はこれまで他国の人民をいじめ、抑圧し、奴隷のようにしたことはない。同時に、中国の人民は、いかなる外部勢力が私達をいじめ、抑圧し、奴隷のようにすることも決して許さない。故意に圧力をかけようとすれば、14億人を超える中国人民の血肉で築かれた『鋼鉄の万里の長城』の前に打ちのめされることになるだろう。」「中国人民と友好に付き合い、中国の革命建設、改革事業に関心と支持を寄せる各国の人民と友人に心からの謝意を表する。」そして、演説で一番拍手が大きく、ウォーという歓声が長かったのは、「私達は決して『教師』のような偉そうな説教を受けいれることはできない」、「強国には強軍が必要であり、軍は国を安定させなければならない。党が銃を指揮し、自ら人民の軍隊を建設することは血と火の闘争の中で党が作り出し、破られない心理である」というくだりである。
強調されているのは、①党の絶対性、②中国は平和国家であり、「失地回復」をしているだけなのに、落ちぶれつつある米国勢力が中国の発展に嫉妬して、発展を押さえつけるべく中国を虐めている、だから対抗せざるを得ないという防御的な自己認識である。中国が強権的なやり方で周辺国等に対して一方的現状変更を試みているために(南シナ海、東シナ海、借金返済できない場合の被援助国拠点の永久的租借)、これを連携して防御抑止せざるを得ないという「自由主義陣営」の認識とはまるで真逆なのだ。自分が他国に脅威を与えているという認識が決定的に欠けている。だから、習近平国家主席が「憧憬される中国になるために、もっと宣伝活動を充実させよ」的な発言をすることになる。足りないのは「宣伝」ではなく「(一方的強権的行為をやめるという)行動の変化」なのに。
そして、中国は自国が孤立しているとは考えていない。米欧日など一部の国が中国に対抗しようとしているが、多くの国が中国寄りだと考えている。例えば、東南アジア諸国は中国経済圏におり、中国不満を持つ国もあるが、米国陣営といえる国は少ないと考えているだろうし、アフリカ諸国は中国支持でありその他多くの途上国も中国寄りだと考えているだろう。(実際、人権理事会で香港問題が取り上げられた際に問題視した国は26か国だったのに、中国を支持した国は50か国以上いた。)
そして、さらに問題なのは、この防御的中国の自己像認識をおそらく14億の中国国民の多くが共有しているということである。この際、もしかして、それは共産党政権中枢が意図的に喧伝したものではないのか否かという点はこの際関係ない。事実として、中国の現在の強硬な姿勢は中国国民のナショナリズムに呼応しているのだ。したがって、中国のやり方が変わることは当面期待できないし、それだけでなく、(偶発的なものも含め)認識ギャップに起因する衝突の可能性があるのではないかということである。(おわり)
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