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2021-11-21 14:31
(連載1)米中露の戦略的安定対話
笹島 雅彦
跡見学園女子大学教授
「核戦争に勝者はなく、けっして戦ってはならない」これは、誰の言葉だろうか。「核のない世界」を訴えたオバマ元米大統領の言葉ではない。今からちょうど36年前、当時のレーガン米大統領と就任したばかりのゴルバチョフ・ソ連共産党書記長がジュネーブで開催した米ソ首脳会談後の共同声明(1985年11月21日)の文言だ。その中で、核の超大国同士が核軍縮に取り組む基本原則として合意したものである。米ソ間のどんな紛争も破滅的結果を招くことを自覚し、通常兵器による戦争と核戦争双方を回避する重要性を強調した。これに先立つ1982年、レーガン大統領は戦略兵器削減条約(START)を提唱していた。厳しい冷戦時代のさなかのことだ。この後、米ソ首脳2人は、翌年のレイキャビク会談を経て、中距離核戦力(INF)全廃条約(1987)を締結。筆者は当時、ワシントンで両首脳が署名する場面を目撃した。そして、冷戦終結後の1991年7月、ブッシュ(父)大統領とゴルバチョフ氏がSTART条約に調印、数千の核兵器廃棄を誓約した。新STARTは2010年4月、署名され、期限切れ間近の2021年1月末、バイデン大統領とプーチン大統領の電話会談で、5年間の延長が合意された。
現在の米露関係は、こうした積み重ねの上に成り立っている。現在の核兵器数は、米国5550、ロシア6255、中国350《ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)年鑑・2021年1月現在》。米露間では、INF全廃条約以降、一貫して急減しており、兵器の老朽化と退役に合わせ、さらに減少していくことが予想されている。ジュネーブにおける米ソ共同声明の原則を基礎に、米国は、ロシアや中国とともに、今後、3か国による戦略的安定性に関する協議を進めることができるだろうか。ロシアはともかく、中国との対話の行方は深い霧に覆われている。
まず、ロシア側の戦力増強には警戒が必要だ。核・非核弾頭搭載可能な海上発射型巡航ミサイルシステム「カリブル」の配備や、ミサイル防衛(MD)を突破するための極超音速滑空兵器「アヴァンガルド」の実戦配備が進められている。また最近、人工衛星に対するミサイル攻撃実験を行い、1500個以上の宇宙ゴミ(デブリ)を発生させた。これは、2007年の中国による対衛星攻撃実験に次ぐもので、今後、宇宙兵器をめぐる規制について、米露間の協議が必要になってくる。
ロシアは、韓国程度の経済規模ながら、核軍縮交渉では依然として、冷戦時代の超大国としての最後の威光を国内向けに保持しているわけだ。中国の専門家の間では、ロシアは「核を持ったサウジアラビア」と揶揄されている。世界のパワー関係では、「中国のジュニア・パートナー」(スティーブン・ウォルト米ハーバード大教授)の地位に甘んじているが、米露間では、核抑止論の共通認識の下、「戦略的安定性」に向けた協議が進められていくことになる。西側諸国から批判と圧力を受けている権威主義体制の中露は一見、国際舞台で歩調を合わせているように映る。しかし、その実態は相互不信にとらわれており、これ以上、両国を疑似同盟関係に追い込むことは賢明ではない。(つづく)
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笹島 雅彦 2021-11-21 14:31
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