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2022-05-02 16:55
(連載2)経済構造の弱体化と景気後退がもたらす政治危機
末永 茂
(一財)国際貿易投資研究所客員研究員
強権的な支配や政治スタイルに対して、国際法や国際連合が紛争解決のために十分機能しないことは、戦後一貫して指摘されてきた。従わせるための実態としての強制力、軍事力を担保できないためである。カントの『永久平和のために』の構想はロシアには響かない。国際法は分裂に次ぐ分裂を経過して成立した国民国家や、小国家間の対外調整機能に過ぎないからである。ロシアや中国は封建領主的伝統が温存されてきた国家であり、古代から連綿と継承されてきた大帝国である。この国家イデオロギーに対しては短期的には、どんな特効薬を処方しても効能は不十分である。さらに、帝国の統治原理は政権交代が困難なことである。
ロシア分割の端的な指標として、国土と人口規模の減少を確認したい。第二次大戦終結時の旧ソ連の国土面積は2,200万㎞2であったのが、現在のロシアは1,700万Km2である。人口も1991年時点の2億9,000万人から、2020年には1億4,500万人と半減している。プーチンの「大ロシア復活」という願望は、こうした国力の低下が根底にある。これを打開する一つの方策として、大陸経済圏の連携強化がある。産業の高度化を図るには課題が山積している。中露経済圏という大陸ブロック経済化の推進は、単に外延的に経済を拡張すれば良いのであるから、軍事統制経済に慣れ親しんできた国家間同士では相性が良い。他方で、中国は歴史課題として、中台統一を5年から10年のタイムスケジュール化しているとも推測されている。台湾のハイテク産業や周辺海域を国内に取り組むことは、対外膨張戦略や中華大帝国の復興には欠かせない事業という訳である。
この一連の国際変動過程は戦後体制の終焉を齎すものといえるが、地域紛争なしにスムーズに展開するようには到底思えない。帝国的国家は高コスト政治体制なしには実現できないからである。むしろ、世界政府の樹立による国際分業の維持拡大の方が合理的と考えられる。その際、最大の課題は大国の統治機能の低下や、分裂国家の発生に伴う地域紛争の多発が想定されるが、これに国際社会は有効な対策が図れるのかがカギになるだろう。ともあれ、当面のロシア経済の大きな課題はモノカルチャー化した経済の抜本的改革であり、景気変動に耐えられるだけの産業多角化戦略が問われる。そのためもロシア国内の内部崩壊と、それに伴う国際関係悪化を導くことのないような投資戦略が必要である。
これらの戦争は米ソ対立の象徴的な戦争という捉え方が定説になっているが、諸説も様々である。戦争が起こる国際関係要因はその都度歴史事情というものがあるが、それらを包括し、原因を一元的に解明したものは未だないのではないか。論者によって階級対立とか、民族問題、宗教対立等々によって説明されが、根底には経済的利害関係の激化や人口増加率の高い地域が、押しなべて紛争発生も頻発している。
ロシアの産業構造は、極端に石油資源に依存したものになっている。ロシアの製造業は「生産第一主義」の名のもとに、ローテクで旧態依然とした企業が多く、先端産業に求められるTQC活動や生産性改善運動は現場レベルでは低調である。これも70年以上も続いてきた社会主義経済計画の弊害から来ているものである。その結果、経済成長率は「表」のように変動幅が大きい。主な要因は石油価格との連動が非常に強く、モノカルチャー経済化している点にある。そして、この成長率推移を観測すると、周辺地域紛争は押し並べて景気後退期に発生している、と読むことが出来る。つまり、「1994-96年のチェチェン紛争、2008年8月ジョージア戦争、2014年2月マイダン革命➔ウクライナ東部紛争へ➔クリミア戦争へ」、そして、2014年クリミア占領という経過を辿った。いずれも景気後退局面である。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)経済構造の弱体化と景気後退がもたらす政治危機
末永 茂 2022-05-01 16:45
(連載2)経済構造の弱体化と景気後退がもたらす政治危機
末永 茂 2022-05-02 16:55
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