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2022-08-30 19:15
(連載1)問われる日本学術会議の世界観
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
朝日新聞の読書欄「ひもとく」で、「戦争と平和:4 人々の息遣いを知り地政学へ」(2022年8月27日)と題して、ロシア・ウクライナ戦争に触発された読書案内を書かせていただいた。「自分自身の政治信条に根差した見解を主張する前に、まずは困難な境遇にあるウクライナの人々のことを理解したい」という書き出しで、最近公刊されている良質の文献にふれさせていただいた。
私自身が、「自分自身の政治信条に根差した見解を主張する前に、まずは困難な境遇にあるウクライナの人々のことを理解したい」という問題意識で、この半年でだいぶウクライナそのものに関する本を、関連する地域情勢に関する本とあわせて読んだ。危機に直面して、まずは当然の自然な態度であるはずだろう。ウクライナについて語れる識者の方々は、より一般的な視聴者が対象のテレビなどのマスメディアでも、頻繁に登場している。
だが「自分自身の政治信条に根差した見解を主張する前に、まずは困難な境遇にあるウクライナの人々のことを理解したい」というのは、意外にも簡単なことではない。日本では「ウクライナ戦争」という概念が流通してしまっているが、これによってかえってウクライナからの視点が欠落しがちになっている。「ウクライナ戦争」という概念の背景には、「これは大国間政治の局地戦争」、「ウクライナ人はアメリカの代理戦争を戦っているに過ぎない」、「ロシアのような大国が侵略をしても手を出せないのでウクライナ人はいずれ降伏するしかない存在」、といった世界観が存在していることが多いからだ。
折しも、日本学術会議の公開シンポジウム「アジアから見たウクライナ戦争-世界の視線の多様性と日本の選択-」の告知が出ているのを見た。非常に印象深いのは、「ウクライナ戦争」を論じるにあたって多数のパネリストを配置して「世界の視線の多様性」を強調しようとしているようだが、「ウクライナの視点」を語る専門家は配置していないことだ。第2セッション「ロシアの視点・ウクライナの視点」と、ロシアとウクライナを一くくりにしたうえで、「ロシアのナショナリズム」と、「黒海から見たウクライナ戦争」がテーマ設定されているだけだ。これではセッションの題名「ウクライナの視点」に対応する報告が見つからない構成になってしまっているように見える。(つづく)
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