ウクライナ危機に関する国連総会の投票で、国際社会はアフリカの親露派で専制的な国々が思いも寄らぬ影響力を有することに驚愕している。しかしアフリカ連合(AU)は本年2月にアディスアベバで開催された第36回AU首脳会議にて、ブルキナファソ、マリ、ギニア、スーダンといったサヘル地域の親露派軍事独裁体制諸国に対して加盟停止を再確認し、「憲法に基づかない政権交代を一切容認しない」姿勢を示した。この首脳会議直前にはECOWAS(Economic Community of West African States:西アフリカ諸国経済共同体)も、ブルキナファソ、マリ、ギニアの加盟停止延長を告知している。AUとECOWASによる一連の行動は、アフリカの民主主義には良い兆候である。よって来る多極化世界なるもので、我々は民主主義の凋落と西側の衰退を受容するような「悲観的リアリズム」に陥るべきではない。ロシアと中国が掲げるリビジョニストの世界秩序では我々の歴史は抑圧と混乱という退化と劣化への途を辿るであろう。我々が敗北主義に陥れば、国際社会には致命的なものとなろう。再確認すべきは、民主主義、自由、人権といった価値観は欧米に限られたものではなく、アフリカにとっても全く別世界のものではないということである。
南アフリカではそうした事態に至らず、議会野党、司法、メディアによる権力の抑制と均衡によってANCのリビジョニスト的な内外政策に歯止めがかかっている。特に反アパルトヘイトで白人リベラル派の進歩党の流れをくむ民主同盟(DA:Democratic Alliance )は、シリル・ラマポーザ大統領によって本年8月に開催されるBRICSヨハネスブルグ首脳会議へのロシアのウラジーミル・プーチン大統領の招待に対し猛烈な反対運動を展開している。DAは5月30日にハウテン高等裁判所に訴訟を持ち込み、国際刑事裁判所の規則を執行してプーチン氏がBRICS首脳会議出席のために南アフリカに到着すれば逮捕させようとしている。またジョン・ステーンフイセンDA党首はCNNとのインタビューでANC政権がロシアに兵器類を送ったとの警告を発したと、南アフリカのデジタル・メディアで自社サイトに「ウクライナとの連帯(Stand with Ukraine)」バナーを掲げるブリーフリー・ニュースは伝えている。さらにラマポーザ氏によるロシアとウクライナの仲介は納税者の金の無駄で、ただの外交ショーだとまで批判している。さらに重要なことに、DAはANCがプーチン政権下のロシアのような専制国家と緊密な関係にあると批判している。最近の水利用での人種別割り当て原案に見られるように、その政策では水資源消費量の60%を占める農場経営者にかかる多大な負担も考慮しないANCは階級闘争と被害者意識に囚われているように思われる。右であれ左であれ、そうした被害者意識のポピュリストはプーチン氏のような独裁者と容易に友好関係に陥りやすい。