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2008-10-07 19:15
100年前の英国を想起させる今日の米国の苦境
坂本正弘
日本戦略研究フォーラム副理事長
10月6日のニューヨーク市場のダウ工業株平均は大きく下げ、1万ドルを割り、1930年代の大恐慌の再来論が強くなっているが、筆者は国際システムとしては19世紀末から20世紀初頭の状況に似ていると考える。確かに、1929年に始まったニューヨーク株式の低下は米国のみならず、特に欧州諸国の金融不安を強めた。第1次大戦後の欧州諸国は米国から多額の戦債を借りていたが、ドイツからの賠償金も取り立てられず、米国から欧州への巨額な資本流出に依存していた。1929年のニューヨーク株の下落は、欧州へのこの資本の流れを逆流させた。1931年にはオーストリアの一銀行破産に発した金融不安はドイツ、英国に波及し、米国に及んだが、この過程で、英国はポンドの金兌換を停止し、英連邦特恵関税地域に立てこもり、世界は英・スターリング地域、ドル地域、ドイツ、日本などの通貨圏に分かれて、対立し、第2次世界大戦へ発展する。
両大戦間期の問題は、植民帝国体制が綻び、工業生産では米国の4分の1の英国が世界の政治を牛耳り、ポンドが世界通貨として通用していた(金為替本位)ことであり、基軸通貨のドルへの移行は時間の問題だったと考えられる。これに対し、現在の世界は、米国が圧倒的な軍事力をもつとともに、依然ドルが世界の基軸通貨として機能している世界である。昨年のサブプライム問題登場以来、欧州金融機関はドルの調達に奔走している。昨今の金融緊縮はアメリカに打撃だが、欧州にも打撃である。為替レートでみると円高だが、ユーロはドルに対して下げる状況となっている。米国経済は大きな調整局面にあるが、米国に代わって世界の安全保障と基軸通貨を担える国がいない点では、1930年代とは決定的に異なると考える。
19世紀末、英国は2国標準(2ー3位連合の海軍力に勝る1位)の海軍力を維持して、世界の領土と人口の4分の1を支配し、金本位の完成と世界通貨・ポンドの機能の上にシテイが世界銀行の地位を獲得した。しかし、1870年代からの世界経済の大不況期をへて(物価は大幅下落)、1900年工業生産で米国とドイツが英国を凌駕し、日、露も勃興した。世紀末のボーア戦争は英国の世界的評価を傷つけた。英国はドイツの挑戦に対抗するため、「光栄ある孤立」を捨て、日英同盟、英米協調、英仏露三国協商を進め、大英帝国を維持した。
現代の世界では、米国が、その卓越した軍事力と700の海外基地により世界の安全保障システムを維持し、また基軸通貨・ドルと国際金融力・IT革命を武器に世界経済を運営している。しかし、イラクでの苦戦、中東での困難、世界の不人気の中で、中国の挑戦、ロシアの復活、インドの台頭などに直面し、苦闘している。米国に代替する国はまだいないが、世界が多極化し始めた19世紀末に似ていると考える。20世紀初頭において英国は、ドイツの挑戦を退けたものの、植民体制は綻び、米国が台頭し、日本が大国となり、ロシアが共産国に変貌して、パックス・ブリタニカは凋落の道をたどった。21世紀初頭において、米国に代替する国はなお現れていないが、現在の世界の金融危機は世界政治にどのような結末をもたらすか、今後の推移に注目したい。
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