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2008-10-22 07:51
「北」の高笑いと日本外交の不在
杉浦 正章
政治評論家
病気の金正日が笑える状況かどうかは分からないが、北朝鮮外交当局が高笑いしている事は事実だろう。北朝鮮は独特の瀬戸際外交で米国のテロ支援国家指定解除を勝ち取って、日米分断に成功し、今度はオーストラリアのエネルギー支援参加で、日本の孤立化を進めることに成功したからである。慌てた外務省は、国際原子力機関(IAEA)経由で北に核廃棄の資金を提供しようとしているが、ここまで後手後手の外交を展開されると、日本に外交はあるのかと言いたくなる。米国による他国へのエネルギー支援振り向け問題は、ブッシュはレームダックで深い関わりはあるまいから、国務次官補クリストファー・ヒルが国務長官ライスとはかって進めていることだろう。ヒルを「敵」に回してしまった外務省は、このところ手痛い打撃を被り続けている。
ヒルがまとめた拉致問題での日朝協議も、北は何と日本の首相が代わった事を理由に事実上ほごにしている。ヒルはテロ支援国家指定解除を進めたい一心で、中途半端な調整をしたに違いない。北も指定解除を取り付ければ、拉致の約束をほごにすることなど、何とも思っていないのであろう。米国が進めている日本のエネルギー援助をオーストラリア、ニュージーランドに肩代わりさせる動きは、「拉致問題の解決なくして、エネルギー支援なし」としてきた日本の対北朝鮮戦略を真っ向から否定することになる。日本は当面、最後に残った外交上のテコを失うことになるからだ。もともと6者協議参加国で、日本の拉致問題に深い関心を持ち、「日本のエネルギー支援拒否はもっともだ」と理解していた国などなかった訳だから、日本は完全に孤立させられた形となった。これでオーストラリアが6者協議に参加でもしようなら、日本の存在感はますます薄れよう。
外務省がこのところ急に「北朝鮮の核廃棄に必要な資金や技術供与をIAEAを通じて行う」と言い出したから、ふに落ちなかったが、6者協議での日本の孤立化を恐れての対応であったことが、肩代わりの動きの急浮上で判明した。いくらIAEA経由とはいえ、北から何の譲歩もないまま、金だけ出すという悪い癖がまた始まった、と受け取られても仕方がないことだ。とにかく日本外交は、後手後手に回っている。その原点にはそもそも世論に押されて「拉致」と「核」を同レベルに置いてしまった基本戦略上の失敗がある。とりわけ安倍晋三時代の核より拉致を優先するような対応に問題があった。国家の安全保障と極東の一事件を同一レベルで論じるのは無理があるのだ。ブッシュに無理な拉致問題解決への協力を持ちかけ、情緒的な支持を勝ち取ったとみて、米国の冷徹な外交が変わると判断した甘さもある。
「拉致」にのめり込みすぎたことにすべての問題があるのだ。外務省首脳はエネルギー肩代わりについて「どうぞご自由におやりください」と平静を装っているが、内心歯ぎしりしているに違いない。省内に“敗北感”が漂っていることも否めまい。どう見ても、このところの勝負は北の勝ち、日本の負けである。首相・麻生太郎は23日から25日まで北京を訪問し、アジア欧州会議(ASEM)首脳会合や、中韓両国首脳との会談に臨む。11月上旬にも米国で開催される主要8カ国(G8)などの首脳会合にも出席する。解散すれば実現するかどうかわからないが、日・中・韓首脳会談も12月に設定する。一連の主要国首脳との会談を通じて「拉致」のくびきから脱した、対極東北外交をアピールして再構築し、日本の存在感を高めてほしいものである。
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