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2008-11-04 13:24
今回の国際金融危機は、日本にとって好機である
坂本 正弘
日本戦略研究フォーラム副理事長
10月7日付け本欄に掲載された拙稿「100年前の英国を想起させる今日の米国の苦境」(780号)で、私は「現在の世界の金融危機を1930年代の大不況に擬して、ドルの凋落を指摘する議論があるが、当時の金融危機がポンド体制を分断・没落させ、世界大不況に陥れた事態と異なり、現在のドルは依然、基軸通貨の機能を保持しており、この状況はむしろ100年前の英国を想起させる」と指摘し、「米国経済は大きな調整局面にあるが、米国に代わって世界の安全保障と基軸通貨を担える国がいない点では、1930年代とは決定的に異なると考える」と結論した。
1990年代から、米国は貯蓄以上に消費した。住宅債務が典型だか、これを証券化し、世界に売り出し、資金を収集し、これを対外投資に回し、世界金融と経済を主導してきた。今回の金融危機は、このメカニズムを修正する状況となろう。米国内ではすでに、消費を抑制し、貯蓄の増大を重視する状況が出ているが、海外でも今回の危機は、売り出した証券・債務を踏み倒す結果となっており、世界の資金循環は変化し、新興諸国でも金融緊縮が成長への抑制となっている。しかし、今回の危機でも、ドルの基軸通貨としての機能は衰えていない。世界の流動性不足とはドル不足のことであり、改めて世界の金融決済におけるドルの役割の圧倒的強さを示している。ユーローの役割の制約が明らかになり、ドルに対し、円以外のほとんどすべての通貨が切り下がった。
今回の危機では、国際協調の高まりが目につく。各国が積極的な金融政策を行い、成長減速に対応しているが、その一因はドル不足への対策である。もちろん欧州諸国は証券化債権が踏み倒されたことを不愉快に感じ、近く行われる金融サミットでこれらの点を問題としよう。注目すべきは、産油国や日本、中国などのアジア諸国に余力が残っている点である。今後の世界経済の展開については全治3年説もあるが、米国の住宅市場の回復などが重要である。年3百万を超える人口増はこの点プラスの要因であり、現在禁治産状態の米国金融機関が、基軸通貨をベースとして、新しい活力を回復する楽観的シナリオもある。
今回の金融危機で目立つのは大幅な円高である。円高をマイナス面で捉える向きが多いが、輸入価格引き下げの効果があり、石油の輸入価格は3分の1になった。東京市場の株安も、ドル資金調達のための円高を利用した換金の側面があったが、日本人による投資増大の端緒となることを期待する。定額減税をはじめとする補正予算に続き、更なる対策が行われる予定だが、日本の経済力を背景として、国際会議で麻生首相や中川大臣がその発言力を増すことを期待したい。
先日、マイケル・グリーン氏は、日米関係について「新大統領は、日本に対する安全保障面での期待を高めよう」と述べていた。確かに、日本はこの面での役割を高める必要がある。米国は、イラクで成功した「ペトリウス方式」をアフガニスタンにも適用しようとしている。危機は、同時に機会でもある。円高は、世界が日本の経済・金融力を認めている証拠である。すでに日本の一部金融機関は、米国などに進出し始めている。日本は、今回の金融危機を好機として、その経済力を軸に、米欧アジアと協力して、世界での存在感を強化すべきである。
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今回の国際金融危機は、日本にとって好機である
坂本 正弘 2008-11-04 13:24
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国際政治にも波及する国際金融危機の影響
坂本 正弘 2008-12-12 10:26
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