今年アメリカでは、カーネギー国際平和財団が創立百周年を迎え、それを振り返る『100 Years of Impact』という論文集が発行されている。アメリカでシンクタンクが発展した背景には、「政治の空白」がある。19世紀後半より急速に国力を伸ばしたアメリカは、ヨーロッパ人から「ゆりかごの中のヘラクレス」と呼ばれてきた。しかし、このヘラクレスは、セオドア・ローズベルトやウッドロー・ウィルソンの時代を経ても、後任者の時代になるとゆりかごに戻ろうとした。覇権国家であったイギリスの国力が低下しつつあった戦間期になっても、ヘラクレスはネメアのライオンをはじめとする怪物退治に出かけようとはしなかった。そうしたアメリカが国力に見合った政治力を発揮する必要があると考えた企業や市民の寄付により設立されたのが、カーネギー国際平和財団であり、ブルッキングス研究所、外交政策評議会といった老舗のシンクタンクである。イギリス植民地時代より育まれてきた市民の自治精神と寄付文化が、既存の政府機構の枠外に「政策形成インフラ」を育成させたのである。現在に至っても、アメリカでは新しいシンクタンク、NGO、そして政策ビジョンのある個人が、次々に立ち上がっている。それを支えているのは、企業やフィランソロピー財団や市民からの寄付である。