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2012-07-04 10:41
(連載)米陸軍の抱える二つの戦略課題(1)
河村 洋
外交評論家
国際的な安全保障をめぐる状況が目まぐるしく変わる中、世界各地で政策形成に関わる者にとって、イラクおよびアフガニスタン後のアメリカ軍の変革の行方を理解することが不可欠となっている。アメリカの戦略の背後にはどのような考えがあるのだろうか?この問いの答えの鍵は、レイモンド・オディアーノ陸軍大将が英国王立国際問題研究所で6月6日に行なった講演にあるだろう。オディアーノ大将がデービッド・ペトレイアス陸軍大将の後任として、イラク駐留多国籍軍司令官に就任したことはよく知られている。現在のオディアーノ大将は、アメリカ陸軍参謀本部長の職にある。したがってオディアーノ大将は、オバマ・ロムニー両陣営の相違を超えてアメリカの国防戦略を語るには格好の立場にある。アジアでは中国を恐れるあまりにアメリカが重点地域を移すことを単純に歓迎する向きもある。そうした人達はアメリカの戦略の全体像を理解し、ヨーロッパと中東にも充分な考慮を払うべきである。
陸軍の変革の鍵は国防予算の縮小、任務の多様化、そしてアジア回帰の三点である。オディアーノ大将は王立国際問題研究所の講演で、重要な変革期にあるアメリカ陸軍が掲げる「予防、具現化、勝利」という戦略概念について論じた。アメリカは国防上の重点地域をシフトしようとしているが、NATOでもポーランド、チェコ、ルーマニア、ブルガリアといった東方前線諸国は、ロシアに備えたアメリカの軍事的プレゼンスを求めている。西ヨーロッパでも、オバマ政権が冷戦後の安全保障に対応するためにとドイツ駐留の2個旅団を撤退させたことで、「アメリカが自分達に目を向けなくなっているのではないか」という不安が高まっている。そうした中で、ヨーロッパ人にアメリカの立場をどのように説明したのだろうか?アジアへの転進がヨーロッパと中東の安全保障を犠牲にすることがあってはならない。
結局のところ、アジア諸国の経済発展のために、両地域の市場とエネルギー資源は必要である。さらに国防予算の減額が余儀なくされる現状で、アメリカは自由主義世界秩序の維持という超大国の責務をどのように果たしてゆくのだろうか?オディアーノ大将は講演の冒頭で「アメリカ陸軍は二つの問題を解決しなければならない。一方で、アメリカはアフガニスタン、中東全体、朝鮮半島といった現在の前線への関与を継続してゆかねばならない。他方で、アメリカ軍は目まぐるしく変化する安全保障情勢に適応して将来に備えておかねばならない。両目的を達成するうえで最も大きな障害となるのが予算の制約である。現行の予算法案では、アメリカは今後10年間で5000億ドル弱の国防支出を削減しなければならない。それによって人件費が支出の49%を占める陸軍は大幅な人員削減を迫られる。最終的には8万人の戦闘要員と非戦闘要員が解雇されることになる。現時点ですでに15,000人の人員が削減され、残りの人員は今後5年間に削減される」と語った。
オディアーノ大将が示した数字は膨大なものである。アメリカはそうした障害をどのように乗り越えるのだろうか?オディアーノ大将は安全保障をめぐる状況を概括するとともに、アメリカ陸軍の戦略目的を述べた。安全保障の不安定要因が強まる中東に関しては、「アラブの春」によって独裁者は引きずり下ろされたが、新しい政府はまだできあがっていない。この動きが核開発の野望を抱くイランに与える影響は予測できない。アジア太平洋地域についてはインド・パキスタンの競合関係と中国の台頭がアメリカ陸軍にとっての主要課題となると述べた。きわめて重要なことに、アフ・パク問題についてはアジア太平洋地域の問題に含めている。これは陸軍が2014年以降もアフガニスタンに関与し続けることを示している。オディアーノ氏は、実際にアジア回帰については他の地域を放棄するという意味ではなく、アジアを戦略的優先地域とすることだと明言した。(つづく)
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