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2014-04-04 11:25
(連載2)アフガニスタンとアメリカの二国間安全保障合意の行方
河村 洋
外交評論家
なぜカルザイ氏はロヤ・ジルガを通過したBSAの調印を遅らせているのだろうか?カーマ通信のアフマド・アカタワザイ記者は「憲法によって再選を禁じられているカルザイ氏が退任後も政治的影響力を維持したいと考えている」と評している。そしてカルザイ氏に最も近い候補者が選挙を制すると見られている。カルザイ氏はアメリカに一般市民の家屋への軍事攻撃を停止し、グアンタナモ基地のアフガニスタン人収容者を引き渡すようにと要求している。カルザイ氏はさらに「この戦争では欧米の利益ためにあまりにも多くのアフガニスタン人が死傷している」とまで不満を述べている。またアメリカがアフガニスタン国内よりもパキスタンのタリバンの方を注視しているという失望の意を漏らしている。カルザイ氏はアメリカの戦闘であまりにも不用意にアフガニスタン国民が巻き込まれて死傷していると非難する。さらにアメリカは反乱分子の攻撃を意図的に誘発しているという陰謀論まで主張した。カルザイ氏がこのような態度をとるのは、彼自身が超大国に立ち向かった偉大な指導者だと印象づけようとしているためでもある。非常に困惑すべきことに、反乱分子の攻撃はアメリカの無人機による攻撃と並行して起きている。
他のステークホルダーにとって、BSAの調印を遅延させているカルザイ氏の強引な態度は当惑すべきものである。ISAF現司令官のジョセフ・ダンフォード海兵隊大将は1月9日の記者会見でカルザイ政権は速やかにBSAに調印すべきだと促し、2014年以降のアフガニスタンの再建に他の選択肢はないとまで語った。NATOのアナス・フォー・ラスムッセン事務総長も2月26日のブリュッセル国防相会議でNATO軍の地位協定の実施のためにもBSAは不可欠だと強調した。
他方でカルザイ政権はゼロ・オプションに備えてBSAの代替手段を模索している。カルザイ氏は米軍の地位について不満を述べる一方で、テヘランを訪問し、イランとの間で8月に調印された長期的友好および協力条約を締結した。イランのハッサン・ロウハニ大統領は近隣諸国に多大な脅威となる欧米軍はアフガニスタンから速やかに撤退するようにと要求した。カルザイ氏がイランに向き始めたのはBSA交渉を有利に運ぶとともに、アメリカとの合意を結べなかった場合に備えるためでもある。さらにイランがP5+1との核交渉を開始したので、インドがアフガニスタンの安定化に向けてイランと協調するうえでの制約はいくらか取り払われる。
アメリカやイギリスといった欧米主要国ばかりでなくインドもアフガニスタンに軍事援助を供与することになったが、シン政権はカルザイ氏にBSA妥結の希望を伝えた。カルザイ氏は他の手段もとっている。そのためにタリバンと秘密裏に接触したが、それによってアメリカと彼の政権の間の信頼が損なわれてしまった。実際にカルザイ氏はオバマ政権が昨年6月のカタール和平交渉にタリバンを招いたことに激怒している。カルザイ氏は自らの政府こそアフガニスタンを代表する唯一の正当な政府だと主張し、タリバンのカタール事務所の閉鎖を求めた。過去の主権論争だけでなく、カルザイ氏はパシュトゥン人主導のタリバンに対して、自分がアメリカに一歩も引かぬ人物だと見せつけようとしている。(つづく)
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