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2016-06-04 01:05
(連載1)新段階に入ったアベノミクス
島田 晴雄
千葉商科大学学長
2016年5月18日と19日に、安倍政権は、2013年以来推進してきたアベノミクスに代わって、その革新版もしくは「新段階に入ったアベノミクス」ともいうべき戦略構想の全貌を明らかにした。それは”一億総活躍”というスローガンを冠した「新三本の矢」から構成される。”一億総活躍”をいわばキャッチフレーズとする「新段階のアベノミクス」を推進するという方針は、すでに2015年秋の内閣改造を機に10月頃には示されていた。それを構成する「新三本の矢」のイメージは、第一の矢 ”希望生み出す強い経済”として2020年までにGDP600兆円を実現する、第二の矢 ”夢つむぐ子育て支援”は希望出生率1.8をめざす、第三の矢 ”安心につながる社会保障”は介護離職ゼロをめざす、として公表されていたが、2016年5月26~27日の伊勢・志摩G7サミットを前に、その概要が経済財政諮問会議、産業競争力会議、規制改革会議の報告として発表されたわけである。
まず、新アベノミクスの目玉である”一億総活躍”とは何か、を見ておこう。政府は「若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病の人も、一度失敗をした人もみんなが包摂され、活躍できる社会」と定義している。具体的には、(1)希望出生率1.8の実現のために、少子化対策として保育枠の50万人の拡大などで待機児童の解消をめざす、(2)働き方改革として、同一労働同一賃金原則を徹底し正規と非正規労働者の待遇差の解消をめざす、(3)介護離職ゼロをめざして、介護労働者の給与改善などにより介護サービスを良質ともに拡充する、などが主な内容だ。
少子化と高齢化そして介護負担などで収縮する労働力を、これらの改革によって増強し、経済成長の労働力制約を緩和しようというもので、その趣旨は評価できる。これは介護施設や保育施設だけでなく、企業の雇用慣行や家庭の在り方に深くかかわる課題であり、目的を実現するために何をどこまで本気で実行するかが問われる。現段階では実現のための道筋はまだ見えない。新アベノミクスは3つの委員会の報告書から構成される。まず、経済財政諮問会議の報告書「経済財政運営と改革の基本方針2016」は、成長と分配の好循環を実現するため、結婚・出産・子育て、成長戦略の加速、新たな有望市場の創出、消費の喚起、成長と分配をつなぐ経済財政システム、そして経済・財政一体改革として社会保障、社会資本、地方行財政の改革を強調している。
つぎに、(2)産業競争力会議の報告書を見よう。これは成長戦略のいわば本体を成す部分で、「日本再興戦略2016」と名付けられている。その要点は、2020年までにGDP600兆円を実現するための、10分野にわたる官民戦略だ。それらは、①第4次産業革命で、自動走行やロボット活用を推進し、20年までに30兆円創出する。②健康立国:医療の効率化等を進め、同じく26兆円、③環境投資:省エネを進めて28兆円、④スポーツ産業振興で15兆円、⑤サービス産業の生産性向上で41兆円、⑥農業改革で資材コストの削減等をつうじて10兆円、⑦中古住宅市場整備で20兆円、⑧観光立国で30年までに15兆円、⑨空港など公共施設の民間運営で10年間で12兆円、⑩消費をプレミアム商品券などで喚起、などである。数字は直接的な付加価値創出と効率化による節約分を示すが、後者も間接的な価値創出となりGDP増加に貢献する。加えて、行政手続きの簡素化や、高度人材の永住権獲得条件の緩和などで経済活力を強化するとしている。(つづく)
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