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2019-07-24 12:43
(連載2)ポピュリズムがもたらす米国内政治の捻じれ構造
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
そうした中、現職議員たちは、民主党連邦議会活動・選挙運動委員会(Democratic Congressional Campaign Committee/DCCC)という組織を結成しています。この組織は現職の議員たちの再選を進めるための組織で、ジャスティス・デモクラッツと争いになるのは当然のことです。こうした動きに対して、今年5月、バラク・オバマ前大統領がヨーロッパで行った講演会で、「銃殺隊(firing squads)を動き回らせるな」という言葉を使って、進歩主義派とジャスティス・デモクラッツをけん制しました。民主党の現職議員の落選運動のようなことをするなと批判しました。オバマ大統領は今でも民主党内で隠然たる力を持っており、今回の大統領選挙ではジョー・バイデン前副大統領を支援するものと見られています(まだ正式に発表していません)。これに対して、AOCをはじめとする進歩主義派とジャスティス・デモクラッツはバイデン攻撃、その裏にあるオバマ攻撃を激化させています。「オバマ時代が良かったなんて幻想だ」という論法で攻撃を仕掛けています。進歩主義派は連邦下院民主党執行部とも対立しています。
国境の不法移民問題について、民主党が過半数を握る連邦下院は収容所の不法移民の子供たちの処遇を改善するための予算案を可決しましたが、共和党が過半数を握る連邦上院ではこの予算案が否決されました。上下両院は妥協し、国境警備に関する予算を増額することで合意しましたが、子供たちの処遇には予算は使われないということになりました。この妥協に、AOCら新人女性議員たちが反対を表明し、連邦下院のナンシー・ペロシ議長と対立しています。ペロシや民主党多数派からすると、進歩主義派の政策は過激すぎて実行不可能、もし実行すると行き詰って有権者の支持を失い、選挙に負けてしまうということになります。この状況の中、トランプ大統領がAOCらを名指しはしていないものの、「自分たちの出身国の政府は危機的状況にあるのだから、それらの国々に帰れ」という趣旨のツイートを投稿しました。
AOCは母親がプエルトリコからの移民ですが、その他の新人女性議員を含めアメリカで生まれています。ということは、生まれながらにアメリカ市民ということになります。この「それぞれの国に帰れ」という言葉は極めて短絡的で、思考停止を伴う言葉です。それをアメリカ大統領が簡単に使う時代になったのか、という嘆息が出てしまいますが、これによって、民主党は一致団結して、トランプ大統領に対峙するということになりそうです。共和党の一部からも批判の声が出ていますが、はっきりと「人種差別的だ」という声もありますが、「そんなことを言うべきではなかった」というはっきりしない批判の声が多いです。共和党は自由貿易を標榜している政党ですが、トランプ大統領は関税の引き上げや相手国に管理貿易を求めるなど、自由貿易に反する政策を実施しています。加えて、共和党の金城湯池となっている地方の農業州は、米中貿易戦争の結果、中国への農産物輸出が減少していることに不満を持っています。トランプ大統領の米中貿易戦争に声援を送っていたのが民主党の連邦議員たちということを考えると、ここに大きな捻じれが起きているということになります。
しかし、共和党側にはトランプ大統領を大っぴらに批判できないという忸怩たる思いがあります。ここにポピュリズム(一般有権者がワシントンの政治に怒りを表明して自分たちの代表を送り込む)を入れて考えると、民主共和両党で、ポピュリズムによる大きな捻じれが起きていると言うことが出来ます。人々の怒りがそれぞれ民主共和両党に及び、どちらの主流派にも相容れない過激な考えが党内で大きな勢力となりつつあるということになります。このポピュリズムに対する警戒感はアメリカでも日本でも根強く、特に反体制を気取ったエリートたちに多く見られる特徴があるように思います。トランプ大統領のAOCらに対する言葉は、ポピュリズムに内包される差別主義、排外主義を示す言葉ですが、それをかけられたのがやはりポピュリズムを体現する議員たちであるということが興味深い点です。私から見れば、どちらも同根ということになります。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)ポピュリズムがもたらす米国内政治の捻じれ構造
古村 治彦 2019-07-23 15:03
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古村 治彦 2019-07-24 12:43
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