スコウクロフト氏の直言は、ブッシュ(子)政権にも向けられた。イラク戦争(2003年)の直前、イラクと国際テロ組織「アル・カーイダ」の直接的結びつきを示す証拠に乏しいとして、フセイン政権打倒を目指す単独行動主義に断固反対する意見を公表したのだ(The Wall Street Journal, August 15, 2002)。対テロ戦争を進めるうえで、国際機関や同盟諸国との協調を重視していたからである。湾岸戦争の時、ブッシュ(父)政権はバグダッド寸前まで進軍したのち、停戦した。同氏は、米軍がバグダッドを占領してしまうと、反米感情が強い風土で占領軍となってしまい、撤収が難しくなることを見抜いていたからだ。米国内世論がリベラル学派も含めてイラク戦争開戦容認に傾いていたころ、明確な反対意見を表明したのは、同氏と新現実主義者のジョン・ミアシャイマー米シカゴ大学教授ら少数だった。
米国内の論争の色分けでは、スコウクロフト氏は、湾岸戦争時をはじめ長年、「タカ派」と目されてきたが、イラク戦争時には「ハト派」とみられた。こうしたレッテル張りの馬鹿馬鹿しさは、評価を下す人の相対的な立ち位置から見て、「タカ派」「ハト派」と勝手に分類されてしまうことだ。評価基準として何ら意味をなさない。国益を重視する現実主義者としての同氏の政策判断は終始、一貫しているのに、である。民主党のオバマ前大統領も、党派を超えて同氏の現実主義に基づく外交手腕を高く評価していた(”Obama Doctrine,” The Atlantic, April 2016)。現在のトランプ政権では、4年間に4人の補佐官が就任している。この4人は、スコウクロフト・モデルから見てどう評価されるだろうか。