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2021-01-15 12:42
(連載2)旧ソ連内における露の地政学的後退
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
次に②のナゴルノ問題について。昨年9月27日にまた始まったナゴルノでの武力紛争は、同11月10日に一応ロシアの調停で収まった。しかしこの紛争に関しロシアは苦しい立場に置かれた。これまでアルメニアに対しては同じキリスト教国として軍事同盟を結び政治的、軍事的支援を全面的に行ってきた。これに対し欧米文化が深く浸透している(欧米には在外アルメニア人が数百万人)アルメニアも、ロシアのクリミア併合を支持した。ただ、欧米から孤立しているロシアは、アゼルバイジャン(以後アゼル)との良好な関係維持にも配慮し、両国に武器を売却して、「双方の武力は紛争への抑止力となる」と弁明してきたが、この弁明は破綻した。またプーチンは、ロシアには200万以上のアゼル人が居住しているとして、アゼルとの関係の重要性を強調した。つまり、実際にはロシアはナゴルノカラバフ紛争には介入せず静観していたのである。ようやく同11月10日、プーチンの仲介で、アルメニア首相ニコル・パシニャン、アゼル大統領イルハム・アリエフの合意が成立し、武力紛争は取りあえず収まった。国際的にもロシア内でもこれを、「ロシアの地政学的敗北」と見る見解が一般的であるが、ロシアの「外交的勝利」との見解もある。
前者は、ロシアが支援してきたアルメニアは軍事的に敗北してアゼル内の支配地域の多くを失い、そこに居住していたアルメニア人が住居などを放棄するとか焼却して逃げざるをえなかったからだ。この地域のアルメニア人は悲惨な状況に置かれ、支配地域をアゼルに引き渡したパシニャン首相を「国賊」として批判するデモも強まり、彼の一家は身を隠さざるを得ない状況に追い込まれた。また、アゼルを一方的に軍事支援したトルコがコーカサスへの影響力を強めるので、「トルコのロシアに対する地政学的勝利」とも見られている。後者は、ロシアによって停戦が成立した。またロシアの平和維持軍がナゴルノカラバフに展開して、アルメニア支配の地域は縮小したが、ナゴルノカラバフの一定地域はアルメニア支配が継続し、そこには逃亡したアルメニア人も帰還しつつある。つまりロシアの外交的仲介で紛争が停止し、また露平和維持軍が、地域の安定に力を示した。また、今回の紛争では、ウクライナやジョージアの場合と異なり、欧米の介入を阻止し、ロシア主導で事態が動いた、という見解である。
最後に、③モルドバにおける親露派大統領の敗北について。昨年11月15日に決戦投票が行われた大統領選挙では、女性のマイヤ・サンドゥ元首相が左派のイーゴリ・ドドン現大統領を破って当選した。得票率はそれぞれ、57.75%、42.25%だった。モルドバの首都キシニョフのロシア人居住地域でも、多くが従来のように左派への投票ではなく、彼女に投票した。彼女の政治的立場は、まず親ルーマニアで、次に親欧米である。モルドバについては、ソ連・ロシア時代にモルドバ人、モルドバ語などと言われたが、実際は民族も言葉もルーマニア人ルーマニア語で、国民も指導層も今は多くがルーマニア国籍も有している(二重国籍)。
この選挙がロシアの「地政学的敗北」と言えるのは、サンドゥがユーラシア経済同盟への参加には反対していること、また事実上ロシアが支配しているプリドニエストル共和国からのロシア軍の撤退を求めていることである。さらに、最初に訪問するのはルーマニア、次にEUとウクライナだろうと、露紙も報じている(『独立新聞』2020.11.17)。(おわり)
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(連載1)旧ソ連内における露の地政学的後退
袴田 茂樹 2021-01-14 20:33
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