このような抑止機能の曖昧さの一方で、核兵器の破壊力は甚大です。トランプ政権が策定した2018年版NPRでは、ロシアの低出力核に対抗して米国も同様な核弾頭の導入を決定しました。この弾頭はW76-2といい、既に潜水艦発射弾道ミサイルに搭載されています。米国において低出力とは10キロトン未満を意味するそうです(CRS Report IF11143, A Low-Yield, Submarine-Launched Nuclear Warhead: Overview of the Expert Debate, March 21, 2019.)。仮に1キロトンの核兵器であってもその被害は壊滅的です。1キロトンの核兵器が地表で爆発した場合、まず、1.1㎞までは初期放射線により100%死亡、次に1.1~1.2㎞では5%が初期放射線で死亡し、残りは急性放射線症を負うそうです(「核兵器攻撃被害想定専門部会報告書」(2007年11月9日 広島市国民保護協議会核兵器攻撃被害想定専門部会)111頁)。なおこの想定においては、核爆発に伴う爆風と熱線による被害は含まれていません。