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2022-03-09 11:51
(連載2)中国の台湾侵攻の可能性はむしろ下がった
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
中国は、台湾統一を悲願としており、今回のロシアによるウクライナ侵攻を注意深く見ている。ロシア軍の作戦の巧拙、国際社会の反応、経済制裁の効果、ロシア国内の世論の動向などを慎重に分析しているに違いない。現代において、これほどの重武装国同士の本格的な軍事衝突は例がなく、ロシア軍が戦線を広げすぎ補給等の問題が生じたことや、現地民の協力を思った以上に得られておらず占領に支障をきたしていることなど、陸続きではない台湾海峡では特別の困難さがあるとはいえ、台湾占領を念頭に中国軍にとって戦訓となる事例は多くあると見る。
他方、中国は「台湾関係法」によって米国の介入を受ける可能性が高く、ロシアがNATOに加盟する前にウクライナを平らげようとしているのとは状況が異なる。国際社会の反応については、これほどに欧米のみならず、世界各国によるロシア非難が拡大するとは中国も想定していなかったと思われ、近時、徐々に報道官の発言にも軌道修正が見られる。また、欧米の経済制裁によりロシア・ルーブルの価値や株式時価総額が暴落するなど金融市場が短期で大打撃を受けたことや、ロシア国内の反対運動が激しくクレムリンがその鎮撫に苦心していることには、中国政府も武力による解決の難度の高さを実感したのではないだろうか。
ここまでのウクライナ侵攻の推移をみるに、中国政府としては、(1)「台湾侵攻」は、今回のロシアによるウクライナ侵攻とは異なり、「台湾関係法」による米軍介入の可能性を排除できないこと、(2)台湾軍及び国民の抵抗による短期戦略の破綻も十分予想されること、(3)台湾海峡を隔てており、ウクライナにおけるロシア軍よりさらに兵站や戦力投射に困難さを伴うこと、(4)台湾侵攻が、今回のロシアと同等又はそれ以上の国際社会の厳しい反発を引き起こしうること、(5)欧米諸国や日本の経済制裁により中国経済が深刻な打撃を受けること、等を想定せざるを得ないであろう。
こうしてみると、国家目標である「中華民族の偉大な復興」も「一帯一路」も「製造業2025」も「共同富裕」も、すべてが不可能又は著しく困難な事態となることを覚悟しなければ、「台湾侵攻」に踏み切ることはできないと考えるのが合理的判断というものだろう。習近平国家主席はこのようなリスクを冒してまでもあえて「台湾侵攻」に踏み切るだろうか。彼が合理的であるならば、プーチンがウクライナ侵攻の引き換えに失ったものの多さに慄くはずで、台湾侵攻の実施は困難になったに違いない。結論として、筆者は今回の件でむしろ台湾侵攻はよりその可能性が低くなったとみる。もちろん、今後のウクライナ情勢や、中ロの動きなどを注視する必要があることは言うまでもない。(おわり)
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