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2025-02-15 23:36
(連載2)変節漢、ルビオ新国務長官は信用できない
河村 洋
外交評論家
そのように卑屈なトランプ氏への忠誠心を抱きながら、ルビオ氏は国務長官としての初の外遊で、パナマ、グアテマラ、エルサルバドル、コスタリカなどラテン・アメリカ諸国を訪問して中国の影響力拡大を打破しようとした。ルビオ氏の指名にはヒスパニック系というバックグラウンドも考慮されているので、トランプ政権が今世紀版モンロー・ドクトリンの実行に当たってアメリカの南の裏庭を重視していることを示している。それはカナダ、グリーンランド、パナマ運河に関するトランプ氏自身の挑発的発言にも見られる通りである。トランプ政権1期目に国家安全保障会議の首席補佐官を務め、現在はアメリカ外交政策評議会(AFPC)のシニアフェローとなったアレクサンダー・グレイ氏は『フォーリン・ポリシー』誌への本年1月13日付け寄稿で、この新たなモンロー・ドクトリンを正当化している。非常に残念なことに、グレイ氏はラテン・アメリカにおけるアメリカの戦略的敵対国の影響を排除することに気をとられており、1960年代にジョン・F・ケネディ大統領が「進歩のための同盟」で高らかに謳い上げた、地域の安全保障、経済発展、統治、エンパワーメントにおける相互協力を深めるという将来の希望に満ちたアイデアについてはほとんど言及されていない。グレイ氏が提唱するトランプ流モンロー・ドクトリンは狭い視野の対中恐怖心に突き動かされ、地政学的な競合については被害者意識、つまりアメリカの戦略的利益が侵害されているという考え方から述べられている。そして自由主義世界秩序の守護者としてのアメリカの役割について、欠片も考えていない。
国際的なインフラ・プロジェクトの弁護士でエセックス大学博士課程在学中のロドリゴ・モウラ氏によると、ラテン・アメリカにおけるトランプ外交の見通しは暗い。左右両派を問わず、ラテン・アメリカとカリブ海諸国は過去のように圧倒的なアメリカ依存ではなく、より多様な外交関係を模索している。さらに重大なことにトランプ氏がラテン・アメリカ諸国をスケープゴートにしてMAGA岩盤支持層に訴えかけていることは、未登録移民の強制送還問題をめぐってコロンビアに課された強制的関税措置に見られる通りである。それはさらに反米感情を醸成し、最終的には中国が得をすることになる。ルビオ氏が貿易や移民などの内政でのトランプ氏のMAGA主張を代表する限り、この地域でのアメリカの評判が好転する可能性は低い。そして全世界的に見て、トランプ氏のモンロー・ドクトリンはロシアよりも中国に不釣り合いなほど重点を置いている。MAGA有権者達はヨーロッパの地政学を自分達とは無関係で遠いものと見なす一方で、自分達の雇用は中国の脅威にさらされているからだ。トランプ氏はヘンリー・キッシンジャー氏が歴史上で果たしたように、中国とロシアを離間させたいと考えている。しかし中ソ間の亀裂はキッシンジャー氏の秘密外交以前から存在していた。現在では中国とロシアの関係に亀裂はなく、BRICS会議やウクライナ戦争で示されたように連携し合っている。MAGAリパブリカンの偏向した中国強硬論は間違っている。ともかくルビオ氏はガザに関するトランプ氏の非人道的な「リビエラ」発言への擁護に典型的に見られるように自身をトランプ化しながら、ニカラグア、ベネズエラ、キューバを含むラテン・アメリカの独裁国家を人間性の敵と呼んでいる。
前にも増して頑迷なMAGA志向を強めたトランプ氏と従属性を増した閣僚が就任したことで、今のアメリカはブライト・パワー(世界秩序のルールと規範の担い手)からダーク・パワー(他国を犠牲にしても近隣窮乏化政策を臆面もなく追求する国)に変わってしまった。議会では満場一致で承認された国務長官でさえ、自国内での右翼ポピュリズムの影響を強く受けている。アメリカの同盟国は、トランプ2.0のアメリカとの関係を再調整している。ヨーロッパは戦略的自立の模索を加速させているが、それにはキア・スターマー首相が昨年7月の総選挙で主張したようにイギリスが大陸への関与を再び強めることが必要である。しかしトランプ氏は関税戦争でイギリスを他のヨーロッパ諸国から引き離そうとしているようだ。何と言っても就任最初の訪問国としてイギリスを検討している。それにもかかわらずトランプ氏は鉄鋼とアルミニウムの輸入に一律25%の関税を検討しているが、それが非EU加盟国のイギリスにどの程度の打撃を与えるかは明らかではない。何よりもトランプ氏の貿易戦争はロシアに対する防衛でヨーロッパが自立せよという彼の要求とは矛盾し、そんなことをすればヨーロッパの結束を乱してレジリエンスを弱めることになってしまう。
日本については、石破茂首相がトランプ大統領との会談を一まず成功裏に終えた。しかし日本政治アナリストのトビア・ハリス氏は、2期目トランプ氏は外国の指導者からの助言を必要としないため、安倍レガシーは必ずしも石破氏にとって有利に働くわけではないと述べている。従って、日本は依然としてトランプ大統領の突発的な言動に警戒する必要がある。ベン・ローズ元国家安全保障担当副補佐官が『ニューヨーク・タイムズ』紙2月9日付けの投稿で、トランプ大統領が突然、選挙公約にはなかったカナダ、グリーンランド、パナマ運河に対する領土欲を表明したと記していることを思い出してほしい。日本は多国間安全保障体制の傘もない「ひよわな花」だが、『外交』誌本年1・2月号の巻頭対談に掲載された慶応大学の細谷雄一教授による岩屋毅外相へのインタビューで言及されたように、石橋湛山流の「現実的平和主義」のおかげで「悪い奴ら」とも長きにわたる外交関係も経験している。注目すべき事例としては、フン・セン政権下のカンボジアにおけるウクライナの地雷除去活動に対するJICAの研修が挙げられる。こうした経験は、トランプ政権への対応に役立つだろう。
最後に、ルビオ長官はアルファ雄ゴリラさながらのトランプ氏に従順な態度をとっているものの、それでも超党派外交政策の重要性を理解していることも述べておきたい。彼は、民主党のティム・ケイン上院議員とともに、2023年に大統領がNATOから一方的に脱退することを阻止する法案を提出した。国家と世界の安全保障が重大な試練にさらされているとき、彼がボスへの個人的な忠誠心よりも良心を優先してくれることを期待したい。(つづく)
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(連載1)変節漢、ルビオ新国務長官は信用できない
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