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2025-08-20 10:07
(連載2)先の参議院選挙と日本の国際主義
河村 洋
外交評論家
以上の分類より、日本版国際主義とはどのようにあるべきだろうか?その前に諸外国に於ける国際主義を概括してみる。まずアメリカで国際主義が台頭したのはセオドア・ローズベルト大統領からウッドロー・ウィルソン大統領の時代で、この国が従来の孤立主義を脱して国際政治で大国に相応しい役割を担うべきだとの主張が高まった。そして自由と民主主義という、アメリカの価値観の拡散が模索されるようになった。ただしトランプ政権になって人権問題が軽視されるなど、アメリカならではの価値観外交は影を潜めている。これに対しヨーロッパでは二度にわたる世界大戦の経験から多国間主義に基づく地域統合と、前時代の植民地帝国からの脱却が模索された。EC加盟の後発国だったイギリスでは、ナショナリスト気運の高まりでブレグジットとなった。しかし、その後はEU離脱派の首相が続いた保守党政権もグローバル・ブリテンの名の下にインド太平洋地域への戦略的傾斜やウクライナ支援の主導といった、国際主義の外交政策を採用している。スターマー労働党政権になってからは、EUへの復帰には至らぬものの、ウクライナ危機への対処もあってドイツやフランスなどとの関係も改善している。ブレグジットが必ずしも国際主義の後退をもたらしているとは言えない。
それでは日本版国際主義、それも党派の枠を超えて掲げられるべき理念とはどのようなものになるだろうか?近年になって近隣諸国からの脅威の高まりから、日本国民の間でも戦後平和主義が見直されるようになった。それでも日本が得意とする分野は軍事を中心としたハードパワー外交よりも、非軍事を中心としたソフトパワー外交であろう。そしてFOIPやウクライナでの戦争をめぐる日本外交でも見られるように、「法の支配」や「力による現状変更の否定」といった普遍的原則も訴えてゆくことになるだろう。しかし先日オーストラリアへの「もがみ」級フリゲート艦輸出という史上初の大型武器輸出契約が成立したとはいえ、日本の外交方針は基本的に「ハミルトニアン」であり続けるだろう。しかし世界各国に友好的な貿易立国という従来の立場を超えて、国際秩序での原理原則の遵守を訴える「ウィルソニアン」への傾斜を強めてゆくべきだろう。ただし日本は、アメリカのネオコンなどが自国外交について唱える「世界の警察官」の一翼を担うほどにはならぬであろ。非軍事分野では開発援助やエンパワーメントなども日本のリーダーシップ発揮が期待される分野ではあるが、ジェンダー問題での国際的な存在感発揮をという主張の妥当性は微妙である。日本での女性の社会進出指標は主要先進国どころか途上国と比較しても低い。その一方で日本では「男性、若年、高学歴」よりも「女性、高齢、低学歴」の方が高いという、世界の趨勢とは正反対の調査結果もある。こうした相反する結果があるからこそジェンダー問題での国際的リーダーシップという構想に疑問を抱きながら、他方ではこれが日本のソフトパワー外交で重要な案件にも成り得るとも思えてくる。
ここで注意すべきは、社会進出指標という統計データが立身出世という栄達を成し遂げた一部の者だけに注目しているということだ。大多数にとって、これは全く無縁な数字である。2016年にアメリカ大統領選挙で民主党のヒラリー・クリントン候補が史上初の女性大統領誕生かと世界的な注目を集めた。しかし米国内の地方の女性有権者の多くは、それはクリントン氏のようなエリートの問題で、自分達には何の関係もないという態度だったことを忘れてはならない。その一方で幸福度の統計となると、その結果に至る背景は明確に説明できない。ともかくジェンダー問題での日本のリーダーシップには、かなり未開拓な課題が多い。国際主義とは対外政策に限らない。内政では海外資本や外国人労働力の流入が、先の参議院選挙で争点にもなった。両者ともこの国の経済発展に不可欠であり、また倫理的にもヘイトは論外である。ただし国家安全保障や国内治安への懸念は払拭されるべきだろう。そうした実務上の諸問題もさることながら、ここで私は先の選挙結果で増長するナショナリストへの反撃のために、小渕政権期に朝日新聞の船橋洋一編集委員(当時)が提唱した英語公用語化の主張を掲げるよう提案したい。その直接の目的は開かれた社会を維持しながら、安全保障および治安の要求も充足させることである。これが中国語公用語化では、後者の2点で問題がある。よって日本社会にとって望ましい外国人像を提示すべきであろう。それは「血と肌の色が何であれ、嗜好、見識、道徳および知性においてグローバル社会の正当な一員」という明確でヘイトのない基準であるべきだ。英語公用語化とは、この目的に向けた第一歩である。
日本政界には国際主義を担える人材はいる。自民党の林芳正現官房長官や茂木敏充元外相、そして国民民主党の玉木雄一郎党首ら政界の重鎮達だけで、与野党の枠を超えてハーバード大学閥ができてもおかしくない。他の海外名門大学では、岸田政権の政策ブレーンだった木原誠二元官房副長官がロンドン・スクール・オブ・エコノミックス出身である。このように超党派で日本型国際主義を担える人材はいる一方で、右翼ポピュリズムの頭目である参政党の神谷宗幣代表は関西大学法科大学院終了となっている。すなわち神谷氏は法学専攻であったのだが、彼の憲法改正草案には 基本的人権の保障、思想・良心の自由、そして信教の自由といった、近代憲法の基本が欠落していたという。これは神谷氏の国家観云々といった問題にもならない。ちなみに私は大学でも大学院でも法学を専攻していないが、それでも彼がどれほどレベルが低いミスを犯したかわかるほどだ。一体、神谷氏は法科大学院で何を学んだのだろうか?まだ先の選挙から時も経ず、永田町では総理が誰か、党派の合従連衡をどうするかで議員諸氏は忙しいようだ。いずれにせよ神谷代表のような人物にこの国の政治が振り回される事態は異様である。参政党はいずれ失速するとも言われているが、先の選挙では雨後の筍のように右翼ポピュリスト政党が乱立したことを忘れてはならない。彼らの打倒には、内政と外交の両面で超党派での日本版国際主義の在り方が模索されるべきである。全ての政策は、そうした基本理念あってこそ成り立つ。(おわり)
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(連載1)先の参議院選挙と日本の国際主義
河村 洋 2025-08-19 11:17
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河村 洋 2025-08-20 10:07
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