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2026-09-14 02:21

(連載2)トランプ、プーチン両大統領はナショナリストながら、ナショナリズムを理解せず

河村 英太崚 外交評論家
II.プーチン氏が提唱するルースキー・ミールの虚構性とウクライナ
 ウクライナ侵攻に先立ち、プーチン氏は2021年に悪名高い論文『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』を発表した。彼はキエフ・ルーシを強固で単一の民族的構成体と見做しているが、実際には緩やかな政治的連合体に過ぎなかった。この物議を醸す論文の発表直後、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのアンドリュー・ウィルソン教授は、プーチン氏が古代のルーシと現代のロシアを意図的に混同していると批判した。現代のロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人はルーシを祖先としているものの、それぞれ何世紀にもわたって独自の国家形成の歴史を歩んできた。さらに孤立していたロシア正教会とは異なり、ウクライナ正教会はルネサンスやその後の宗教運動の影響を受けていた。こうした点から、ウクライナがロシアよりも西側諸国へと傾斜するのは、より自然なことだと私は主張したい。ウクライナ人には、ロシア人に見られるような皇帝崇拝を受け入れる理由など何もないからだ。
 
 さらにウィルソン氏は、クリミアでのロシアの歴史的領有権というプーチンの主張を真っ向から否定している。2014年のクリミア併合は、現在の戦争の前兆となった出来事であった。クリミアは、農産物を輸出するための黒海貿易路の制海権確保の上で戦略的に重要な場所でもある。それにもかかわらず、プーチン氏はキエフ・ルーシのウラジーミル大公がクリミアで洗礼を受けたという、確証のない歴史を持ち出している。明らかに彼は、ロシア国民に対してクリミアが持つ精神的価値を印象づけようとしたのである。ウラジーミル大公の洗礼の地については歴史学者の間でも議論があるが、プーチン氏は根本的な事実を無視している。それは、エカチェリーナ大帝によって植民地化されるまで、クリミアがキエフ・ルーシにとっても現代のロシア人にとっても「異邦人の地」であったという根本的な点である。大帝による征服以前、そこにはクリミア・タタール人、ギリシア人、アルメニア人などが居住していた。
 
 たとえプーチン氏が言う通りにロシア人とウクライナ人が言語や文化を共有していたとしても、それが直ちに彼の単一国家論を裏付けることにはならないと訴えたい。カナダはイギリスやアメリカに対して、自治、主権、そしてアイデンティティを求めてきた歴史がある。ウクライナを抹殺しようとするプーチン氏の野心や、カナダを併合しようとするトランプ氏のゴリ押しは、アドルフ・ヒトラーが行なったドイツによるオーストリア併合を彷彿とさせる。こうした根拠の乏しい単一国家論は、誇大妄想から生じている。何よりも、プーチン氏は学術的な誠実さなど持ち合わせていない。あの論文は、KGB仕込みの偽情報の典型例なのである。
 
III. トランプ氏とプーチン氏の個人的背景の比較
 トランプとプーチンは共に情報バブルの中にいるが、他国の抑圧的な外国勢力に対するナショナリズムを軽視しながら自国の正当性を声高に主張するのは、単にその環境のせいだけではない。結局のところ、彼らは他者を威圧・攻撃することで自らのナショナリズムを満たしている。不動産業界と諜報機関というそれぞれの経歴から、彼らは極めてゼロサム的な思考の持ち主となっている。さらに理解を深めるために、両指導者の性格についても触れておきたい。
 
 トランプ氏には、外国の歴史や国際情勢を理解するための知的能力が欠けている。彼は若い頃に自身がペンシルベニア大学ウォートン・ビジネススクールを首席で卒業したと豪語していたが、故ウィリアム・T・ケリー教授によってその主張は明確に否定された。同教授は、トランプ氏を「これまで教えた中で最も愚かな学生だった」と公表した。ウォートンが名門校とはいえ、そこでの成績があまりに悪いとあってはトランプ氏が充分な知性の持主とは言えない。彼がエスタブリッシュメントの知識人に激しいヘイト感情を抱くのも無理からぬことだ。トランプ氏がMBAを取得したと誤解している識者もいる。それは間違いで、実際には学士レベルで酷い劣等生だった。MAGAを掲げる支持者達は、人種やジェンダーに関してポリティカル・コレクトネスを全否定した攻撃を好んで行なう。ならば彼らの流儀に倣い、こちらもポリティカル・コレクトネスを全否定してトランプ氏の知性欠如をネタにやり返しても良いのではないか。「それ、やっちまえ!」と言いたいところだ。
 
 一方、プーチン氏はKGB脳の鋳型にはめられた。ソ連のエリート層は二つの柱で構成されていたが、共産党が権力を失った後もチェーカーの系譜は連邦崩壊を生き延びた。イデオロギー的には、彼らは「万国の労働者のためのマルクス主義」から「秘密警察による権威主義的ナショナリズム」へと転向した。故ジョン・マケイン上院議員は2000年の米大統領選で共和党指名を争った際、プーチン氏についてこう語った。「彼の目を見つめたとき、私はK、G、Bという3つの文字を見た」と。イデオロギー的には対立する立場にあり、アメリカ・ファーストを信奉するケロッグ元中将も、この点に関してはマケイン氏に強く同意している。国家安全保障に真剣に取り組む者であれば、政治的立場にかかわらず共通の認識を持つものだが、トランプ氏は果たしてこのことを理解しているのだろうか?
 
 皮肉なことにプーチン氏は現在ICC(国際刑事裁判所)から訴追され、そのために南アフリカやブラジルで開催されたBRICS首脳会議への出席できなかった。彼はモスクワ国立大学の最大のライバルであるレニングラード国立大学(現サンクトペテルブルク国立大学)で国際法と貿易を専攻したが、彼の思考形成においては、大学教育よりもKGBでの訓練の方が大きな影響を及ぼしている。
 
IV. トランプ氏とプーチン氏に見られる、搾取・捕食的なナショナリズム
 各々の背景には違いがあるものの、トランプ氏とプーチン氏は自らの部族主義的な見解をあらゆる手段を用いて他者に押し付けようとする点において、極めて似通った思考の持ち主である。彼らは知的な謙虚さをもって世界を見るのではなく、搾取や捕食を伴うナショナリズムの視点から世界を捉えている。彼らは、正当な手段であれ不当な手段であれ、自らが望むものを手に入れようとする。彼らは、自らの主張に含まれる道徳的・論理的な矛盾など気にも留めない。こうした姿勢が、他国のリベラル・ナショナリストを弾圧することにつながっている。リベラル・ナショナリズムとは、グリーンランド、カナダ、パナマ、ウクライナの例に見られるように、自治と自由の追求から生まれるものである。それは、MAGAを掲げる集団やその他の西側諸国の右翼が好むような、ヘイトのイデオロギーではない。また、搾取や捕食を伴うものでもない。
 
 トランプ氏やプーチン氏のような指導者は、自国の「大国」としての地位を強く意識するあまり、搾取や捕食を辞さない強欲さで世界を強引に押し回そうとするが、その国力に見合ったグローバル公共財の提供や、世界に対する責任を果たすことには関心などない。その一方でカナダのマーク・カーニー首相のような中堅国の指導者達の中には、自国のためにはリベラル・ナショナリズムを、国際社会のためにはリベラル・インターナショナリズムを掲げ彼らに対抗する者もいる。(おわり)
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(連載1)トランプ、プーチン両大統領はナショナリストながら、ナショナリズムを理解せず 河村 英太崚 2026-09-13 23:39
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