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2013-08-12 16:21
(連載)米国に日本の声をどう反映させるか(1)
河村 洋
外交評論家
日本はパックス・アメリカーナの世界での繁栄を享受する国であり、また自身がアメリカによって自由民主国家に作り直された国でもある。ナショナリストは近年盛んになった改憲論争で戦後憲法がアメリカ製だと不満を漏らす前に、こうしたことを銘記すべきである。アメリカ叩きなどしても、日本の安全保障と国際的な地位に対するセーフティー・ネットをなくすだけである。よって日本にとっては何を差し置いてもアメリカの外交政策形成者の間に自国の声を強く反映させることが重要になってくる。それは世界が一極であれ多極であれ同様である。
外交政策は主として国家と国家の関係を調整するものなので、安倍政権が鳩山政権下で破綻したオバマ政権との関係を改善することは、間違いではない。ナショナリストと見られがちな安倍氏とリベラルどころか「ポスト・アメリカ」的とさえ言われるオバマ氏では、政治理念に隔たりがあると指摘する声もある。しかし、歴史上でも長続きする同盟関係は、そうした隔たりを乗り越えてきた。これはイギリスとアメリカの間の特別関係に典型的に見られる。現政権のイデオロギーがどうあれ、アメリカとの同盟関係の強化によって自らの国際的な立場を強めるということは、イギリスの外交政策の優先事項で、そうした事例には民主党のケネディ政権と保守党のマクミラン政権および共和党のブッシュ政権と労働党のブレア政権という組合せが挙げられる。しかし、日本の声をアメリカの外交政策形成に大きく反映させるには、それだけでは足りない。
アジア系アメリカ人の人口増大を背景にした中韓ロビーに恐怖感を覚える日本国民の間からは、アメリカの政界周辺への影響力の浸透に攻勢をかける彼らに対して、対抗ロビーを強化すべきだと主張する声もある。マイク・ホンダ下院議員が第二次大戦中の日本による朝鮮人慰安婦問題に対して提案した「悪名高き」決議案は、日本人の間に深い心理的な傷を負わせた。よってそうした心情は理解できるが、 特定の国の利益のために働くロビー活動にはアメリカ人から疑念と警戒心を呼ぶことになろう。1980年代に日本企業がロックフェラー・センターを買収した際、アメリカ国民が日本ロビーに激しい敵意を持ったことを忘れてはならない。「ジャパン・ロビー」あるいは「ジャパン・ハンドラー」への過剰な依存は、日本の国益の前進には必ずしもつながらない。
むしろ日本がなすべきことは、アメリカの世界戦略との共通の利益を強調することである。オバマ政権のポスト・アメリカ思考に加えて、共和党内で小さな政府にこだわり過ぎる者たちの間に、孤立主義の心理はあるものの、アメリカの外交政策形成者たちの間には国際主義者の反転攻勢も見られる。日本にとっては疑わしい「日本ロビー」よりも、彼らの方がずっと良いパートナーである。ワシントンの国際主義者との関係強化には、日本側も広くグローバルな視点を持たねばならない。そこで典型的な事例について述べたい。一般の日本国民はオバマ政権がアジア転進政策を公表すると無条件で歓迎した。実際にはイラクとアフガニスタンからの撤退に見られるように、それは中東におけるアメリカの軍事的プレゼンスを低下させただけであった。さらにアメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグレン常任フェローが頻繁に指摘するように、中国、北朝鮮その他に対抗するためのアメリカの軍事的プレゼンスが格別に強化されたわけでもない。(つづく)
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