F35は単なる技術革新ではない。パイロットでもエンジニアでも整備工でもない我々が注視すべきは、政策形成に当たっての新時代の戦略概念である。『ポピュラー・サイエンス』誌のエリック・アダムズ航空軍事編集員はディスカバリー・チャンネルの”Secret of Future Air Power 2015”という番組で「アメリカの将来の航空兵力の鍵を握るのはステルス、UAV、EMP(電磁パルス)といった技術を超えて、航空戦を行なうことなしに敵を無力化するという概念である」と語っている。実際にステルス技術そのものは新しいものではない。ナチス・ドイツがすでに現在のステルス戦闘機の原型を開発している。RCS(レーダー反射断面積)を低下させただけで戦争が劇的に変わるものではない。またBVR戦も新しい戦術概念ではない。それはすでに1954年にアメリカ海軍がF3DスカイナイトにAIM7スパロー対空ミサイルの配備を始めてから実施されていたものである。F35を配備するための戦略および戦術思想は、そうした長年の進化の成果なのである。よって、新鋭の戦闘機にたった1回の格闘戦の勝敗で評価を下すのは性急である。軍事評論家の岡部いさく氏が述べるように「戦闘機を“虎とライオンが戦ったらどちらが勝つか”のような単純化された議論で比較することはあまり意味がない」のである。先のリンステッド退役空軍佐も同様なことを述べている。