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2020-04-18 21:44
(連載2)コロナウイルスによって変化する国際秩序
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
これに対して、政治学者の北岡伸一JICA理事長は、30年、50年先には世界政府的なものは実現せず、むしろ逆に貿易制限や渡航制限などの国境措置は増えるかもしれないとして、「ボーダレスではなくボーダフルの時代になる可能性がある。国境措置を含む対外関係の処理能力はもっと重要になる。人は国家以外のものに徴税、裁判、軍事などを委ねようとはしないだろう」と述べている。(『アステイオン91』2019年12月)また、元フランス外相のユベール・ヴェドリーヌも同じように、「国を隔てる障壁は取り除かれ外交は無用の長物となる、新たな主体となるのは市民社会とか国際機関やNGOなどだ」というリベラリストの考えを批判して、「国家には国家固有の役割があり国際機関が国家に代ることはできない」と述べている。(『歴史の継続』2007年 邦訳『国家の復権』 2009)ちなみに、ヴェドリーヌは社会党員である。
私は、これらリアリストの考えに同意する。今私が関心を向けているのは、ロシアでもコロナウイルスのパンデミックに関連して、国際システムへの影響が議論されていることである。コロナウイルス問題は、ロシアが主導する旧ソ連圏の「ユーラシア経済同盟(EAEU)」にネガティブな影響を与えているとして、次のような状況が報告されている。「ロシアやカザフスタンが国境閉鎖を行い、これらの国に出稼ぎ労働者を送り出していたキルギス、ウズベキスタン、タジキスタンなど中央アジア諸国やウクライナなどにとって単なる経済問題だけではなく深刻な人道問題となっている。これらは、各国の国家エゴの強まりの結果でもある。国家経済が揺らいでいる時、どの国も自国の生き残りのために、他国への配慮を失っている。このことは、全ての同盟や連合などに言えることであって、ユーラシア経済同盟EAEUも例外ではない。コロナウイルス問題の結果として生産分野の協力、貿易関係、人道面での協力は急激に落ち込み、それはEAEUの存続にとっても試練となっている。」(『独立新聞』2020.3.19)
また元エリツィン大統領の報道官で改革派のビャチェスラフ・コスチコフは、第2次世界大戦後の世界は基本的に安定していたと考えてきたが、突然中国発のウイルスにより世界は予見不可能の混乱に陥った、と指摘している。そしてこのウイルスは数千人の生命を脅かしているだけではなく、世界経済の統合や欧州統合に最大の脅威を及ぼしている、とも述べている。彼は、「『中国ウイルス(китайский вирус)』の打撃の大きさはブレグジットの比ではない」との表現も使っている。さらに彼は、「欧州の政治家たちはつい先日にはNATO軍に対して欧州独自の統合軍の創設について議論していたが、この問題はどうなるのか。これからは欧州の各国が自国軍と自国における軍産複合体の強化の必要性について議論するようになるのだろうか」とも問いかけている。(『論拠と事実』2020.3.25)。
また別の論者も、パンデミックは欧州連合とEAEUの欠陥を明らかにした、と指摘している(『独立新聞』2020.3.27)。ロシア人権委員会代表を務めたウラジミル・ルキンは、コロナウイルス問題と関連して、「国家主権とグローバリズム」について論じている(『ノーヴァヤ・ガゼータ』2020.3.23)。また、コロナウイルスは中国の「一帯一路」に大打撃を与えている、との論もある(『独立新聞』2010.3.20)。(おわり)
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(連載1)コロナウイルスによって変化する国際秩序
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袴田 茂樹 2020-04-18 21:44
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