それでも、すぐに白旗を挙げてロシアの要求をのめばいいではないか、といわんばかりの意見には賛同しかねる。戦争指導者が国民の命と国土のためにどこかの時点で妥協すること自体には一理あるだろう。第二次世界大戦で、フランスがドイツに降伏した理由の一つはパリの美しい歴史的街を、ノートルダム寺院を、破壊されたくないということだったのかもしれない。日本だって、広島、長崎に原爆が落とされる前に降伏すべきだったのだろう。だが、戦わずして白旗を挙げて侵略者の要求をのめば、それで平和になるというのは幻想にすぎない。属国になればもっと酷い目にあう。そして「祖国」がなくなってしまう。それがわかっているから、祖国のために人は戦うのだ。チャーチルがドイツと最後まで戦う(We shall never surrender!)ことにしたのも、バッキンガム宮殿やウィンザー城にナチスドイツのハーケンクロイツの旗が翻る光景を死んでもみたくないというイギリス人が多かったからである。